● 恋愛紀元前〜side M〜 ●




 ここに着いてからの私は、少しだけ、変だ。
 ここ ―― 原始時代、六千五百万年前の世界に来てから。
 ……ううん、正確には、エイラと出会ってから。

 エイラは私たちのことを……特に、クロノのことを気に入ったみたいだった。
 彼女は出会い頭にクロノに抱きついてきた。強い男が好きだと言って。
 その時、とっさに私の口から出てきた言葉は、
 「離れてよ、クロノ!」……だった。

 どうしてだろう?
 抱きつくぐらい、私もしたことがあるのに。
 クロノを好きなのは、私も同じなのに。
 自分は良くて、他の人はダメなの?
 ……そんなに私、イヤな子だったかな。

 強い者は男でも女でも好きだ、と、エイラは付け加えた。
 その言葉に、すごくホッとしたのは……何故なんだろう。
 なんだか胸の奥がモヤモヤしてる。
 目の前で燃えている焚火がつくった、陽炎みたいに。

 「せっかくだから、楽しもうよ」
 エイラが設けてくれた宴の場で、クロノに向けた台詞は、
 ほんのちょっぴり、自分に言いきかせる意味もあったのかもしれない。

 初めて口にするお酒を飲んでるうちに、気分は高揚してきた。
 自然と身体が動き出す。
 ……動けば、忘れられるかな。
 この、よくわからない、心のわだかまりを。

 リーネ広場で踊ったのと同じ踊り。
 舞っていると、その時のことが頭によみがえってくる。
 クロノは一緒に踊ったわけじゃなかったけど。
 ずっとそばで待って見ててくれて、それが嬉しかった。
 そう、今みたいに。

 「ねえ、クロノも一緒に踊ろうよー!」
 振り向いて、誘ってみる。
 でも、クロノは笑って手を振るだけで、こちらには来なかった。
 ……ちょっと残念。

 だけど、自分に向けられたその笑顔が、胸のモヤモヤを吹き払った。
 そして、代わりに。
 なんとなく落ち着かない気持ちが湧き上がる。

 やっぱり変だな。
 きっと動いたせいだけじゃない、鼓動の早さ。
 きっと炎に照らされてるからだけじゃない、頬の熱さ。
 それがこんなに心地いいなんて。
 慣れないお酒が効いてるのかしら。


 ―― 違う、と心のどこかが呟いたけど。
 私がそれを認められるようになるのは、まだ、先のお話。



 −END−




<オマケのあとがき>

(1)テーマはsideCと共通で、「自覚の一歩前」と「ヤキモチ」でした。あと、どっちも「笑顔」ってのがキーポイントかもしれない(笑) ……書いてる奴が笑顔に弱いからなァ……。

(2)同じ場面を二つの視点で見た話ですが、最初はこっちの話は考えてなかったです。シチュエーションなんかを詳しく詰めるうちに思いついたので。

(3)リーネ広場で踊ったのがどうこう、というのは本編小説のエピソード12「約束」から来てます。そっちの小説の方でこの話みたいな場面を入れることはないと思いますけど。あれを基本世界にしたパラレル話と考えてもらっても構いません。


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