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中世・ガルディア城の前庭には、騎士団とその見習いたちが訓練や演習を行うための設備がある。 使い込まれた風情の漂う木剣や弓矢、そしてその相手役を務めて傷だらけになった、いくつもの木人形と同心円の的。 それらは魔王軍との争いが長い歳月に渡るものだということを、雄弁に物語っていた。 だが、これからは当分、そういった道具たちにも骨休みする機会が与えられることになるのだろう。何しろクロノたちは、戦の終わりとそこに至る顛末を告げるために、この城へやってきたのだから。 「カエル、遅いな」 そんな前庭を望める正門手前の階段で、クロノは暇をもてあまし、ステップに腰かけたまま伸びをした。 「うーん……話、長びいてるのかな?」 こちらもやはり手持ちぶさたに、マールが壁に背を預け、城の動かぬ大扉を見遣る。 魔王城での一件を、王やリーネ妃に報告した帰り道である。 去り際、騎士団長に、少し話したいことがあるとカエルを名指しで呼び止められた。 それほど時間はとらせないと言われたし、どうやら個人的な用件らしかったので、二人はここで彼が戻るのを待っているのだった。 様子を見に行ってもいいが、カエルたちがどこで話をしているのかはわからないし、広い城の中である。下手に動き回ると行き違ってしまいそうだ。 クロノはぼんやり空を眺めた。 この時代に初めて降り立った時と違い、今はよく晴れ、心なし風も優しく感じられる。 魔王の足取りは杳としてつかめず ―― おそらくはクロノたち同様、いずこかの時代に流れ着いているのだと思われるが ―― また、陥落した魔王城から落ち延びた魔物の残党といった懸念すべき事柄はあるにせよ、当面の大きな危機はもはや去ったと判断して良いだろう。久しい平穏の訪れが、空気にも表れているのかもしれない。 そうしてぼうっとしていると、なんだか眠くなってきてしまいそうで、クロノは何か暇を紛らすことはないかと辺りを見渡した。 「……あ」 再び視界に入った前庭の景色で、不意に思いつく。 「マール、それ、少し貸してくれないか?」 「え?」 唐突に指差され、マールはきょとんと自分自身を見回した。 「それって? どれ?」 「そのボーガン」 彼女の肩に掛けられたベルトの先を示すと、マールは確認するように尋ねた。 「いいけど……撃つの?」 「ああ。前からちょっとやってみたくてさ」 差し出されたボーガンを受け取り、クロノは遊び道具を見つけた子供の顔をした。 少しばかり齧ったところで実戦に生かせるなどとはさすがに思わないので、要は好奇心、興味本位である。 「へえ。これ、意外と軽いんだな」 彼が普段扱っている得物に比べれば重量はあるだろうが、刀や剣と違い、片手で振り回す種類のものではない。無骨でかさばる見た目に反して、手の中のそれは、ずいぶんと頼りなさげな重みだった。どうやら弓部分だけでなく、台尻などにも軽く丈夫な素材を選んであるらしい。 「あんまり重いと、私じゃ扱えないもの」 クロノやエイラみたいに力持ちじゃないから、とマールは残念そうに笑った。 彼女には珍しい、どことなく寂しげなその笑顔が妙に印象的で、なぜか心を騒がせる。 波立つ気持ちをごまかすように、クロノは視線とともに意識を手元に移した。 「ええと……ここを引けばいいのか?」 引き金に左手をかけ、見よう見まねで構えると、マールは隣に並んで指示を始めた。 「うん、でも、その前にここに矢をつがえて。……そう。あと、こっちを左手でおさえて」 「左手?」 思わず聞き返す。 マールが示したのは、弓の前方付近だった。左手が引き金にかかっている状態では、当たり前の話だが届かない。 「あ。そっか、クロノ、左利きだったっけ。じゃあ、右で……こう」 口頭で説明するのがまどろっこしくなったのか、マールはクロノの斜め後ろから手を伸ばし、指先を彼の右手に添えた。 ふわり、と甘い香りが鼻孔を撫でる。 無意識に目線で匂いをたどると、思った以上に間近な位置に彼女の顔があった。 耳元近く、吐息が感じとれるほどの距離。その近さ、思いがけなさに、鼓動が跳ねる。 その拍子に引き金に触れてしまったようで、びよよよよんと間の抜けた音を立てて、矢が飛んだ。 「きゃっ!」 マールが慌てて身を引く。 音のわりに勢いよく放たれた矢は、地面に矢先をめり込ませ、傾いで突き立った。 「……あ、あっぶなーい!」 「あ……。ご、ごめん」 「もう、気をつけなきゃダメでしょ?」 おもちゃみたいでも、これだって立派な武器なんだよ、とマールは眉根を寄せてたしなめた。 「はい、これ。今度はきちんと押さえててね」 矢筒から新しい矢を取り、差し出す。 ……が、クロノは受け取らず、首を横に振った。 「いや、その……やっぱいいや。返すよ」 「え? いいの?」 「うん、オレにはこっちの方が性に合ってるみたいだし」 腰に携えた刀に手を掛け、クロノは早口にまくしたてた。 「……そう?」 どこか釈然としない面持ちで、マールは返されたボーガンを身につけ直した。 強く言いすぎたかと反省する少女の横で、クロノは未だ戻らぬ騎士殿に、さっさと帰ってこい、と心の中で悪態をつく。 正体不明の動悸と落ちつかない感情は、なかなか収まってくれそうになかった。 ―― 恋の矢は、思いがけず人を射抜くもの、かもしれない。 −END− |
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<オマケのあとがき> リクエスト絵を描いていて思いついた、イラスト先行型の話。タイトルはぺらぺらーず(新ソードワールドリプレイNEXT)第0話から拝借しました。元題でのナイトは夜の意味ですが、こちらは騎士の方のナイトということで。この話でのカエル、本人的には二人に気を利かせたつもりで戻るのがゆっくり、というのが自分の脳内設定です。 ゲーム上の時系列でいうと、「大地のおきて」と「魔法の王国ジール」の間ぐらいのイメージです。原始のゴタゴタが一段落した後、未知の(古代への)ゲートをくぐる前に、これまでのことを王様たちに知らせるというのはあってもいいかなーと。 <<<小説目次 <<<クロノトリガー目次 <<<TOP |