● エピソード18:壊れたロボット ●




 ジェットバイクのおかげで、プロメテドームまでの行程はそれまでに比べて遥かに楽なものになった。青く長い車体は三人以上でも充分乗れる大きさで、現在地と目的地を示す小型の装置 ―― ルッカ曰く『カーナビゲーション・システム』―― も搭載されていた。操縦は主にルッカが担当したが、言われた通り動かし方は至極簡単で、クロノやマールも面白がって交代で運転した。
 三十二号廃墟の途中では、妙に人間臭い雰囲気のあるロボット・ジョニーにバイクレースを挑まれたりもしたものの、その他は特記すべきこともなく、三人は目的地に無事到着した。
 プロメテドームはトランドームやアリスドームよりもずっと小ぢんまりした建物だった。ジェットバイクの案内図がなければ、つい見逃してしまったかもしれない。だが、そんな小さなドーム内部にも、アリスドーム地下のように警備ロボットがいた。入ったとたんの手荒い歓迎に、クロノたちは正直辟易したが、ともあれ、撃退することができた。
 そうして、ゲートを求めて奥へと向かった時。
「!」
 思わずクロノは収めた刀を再び抜き、マールやルッカも身構えた。
 そこにはまたロボットがいたのだ。
 ……が。
「あれ? ……なんだ、壊れてら」
 クロノは刀を下ろしてそれに近づき、軽く拳で叩いた。
 丸っこい頭部に、顎とつながった円筒形の真鍮の胴体。ひょろりと長い二本の腕はそれぞれ武器のようなものとごつい手をくっつけている。手に比べると短く大きな両足は、お座りさせられているかのように床に投げ出されていた。そして、そのいずれもが苔むして埃まみれで、まるで投げ捨てられて置き忘れられた巨大な人形のようだった。
「ぼろぼろだね。壊れてずいぶん経ってるみたい」
 マールもロボットに触れて、表面に付いた汚れを払った。
「けど……すごい……」
 ルッカがロボットを眺め回し、感激に震えた。
「すごいわ。二足歩行の完全な人間型ロボットよ、これ!」
「え? でも、ロボットなら今までの所にもいたろ?」
 クロノが不思議そうな顔をする。
「それに、ルッカだって作っただろ。ほら、あの、オレがひどい目に遭ったやつ。ゴンザレスだっけ?」
「ううん、これに比べたらあんなのオモチャみたいなものよ……ああ、なんて精巧なつくりなのかしら! さすがは未来世界だわ!」
「……ふーん……。そんなもんか?」
 多少の皮肉も込めた言葉だったのだが、今のルッカには聞こえていなかったに違いない。どうもここに来た目的さえ半分忘れかけているようだ。
「ねえ、それよりゲートを探さない?」
 マールも言ったが。
「待って。……その前に、これ、直してみていい?」
「直す!?」
 突拍子もない発言に、クロノとマールは目を白黒させた。
「直すって、このロボットをか!?」
「そんなことしたら、襲ってきちゃうよ!」
「そうしないように直すの」
 ルッカは静かな声で言った。
「ロボットたちは、何も自分の意思で襲ってるわけじゃないのよ……。人間がそういうふうに作ったの。ロボットたちの心をね」
「……ルッカには、ロボットたちの気持ちがわかるんだね……」
 マールが感じ入ったように呟いた。
 クロノは内心、あのゴンザレスを作った人間の言葉とも思えないけど、と言いたい気分だったが、ルッカの真剣な瞳に、茶々を入れるのをやめた。
「じゃ、とりかかるわ」
 沈黙を肯定と受け止め、ルッカは鞄から携帯の工具を取り出した。


 ルッカが試行錯誤を繰り返しながら一心に修理している間、クロノとマールは狭いドームの中を調べまわってみた。どうやらゲートはロボットが背にしていた扉の先にあるらしい。鋼鉄の扉はあの奇妙な紋章こそ刻まれていなかったが、押しても引いても叩いても、ウンともスンとも言わなかった。頑丈で壊すことも無理だったので、クロノなど、また後で考えようとフテ寝を決め込んでしまった。
 マールはルッカの作業を邪魔しないようにおとなしく座って眺めていたが、そのうち飽きて、うつらうつらと舟を漕いだ。
 ―― そうして、数刻も経った頃だろうか。
「これでよし……っと!」
 ルッカが手にしていたドライバーを下ろし、ロボットの胴体の蓋を閉じた。
「……あ……できたの?」
 マールが目を覚まし、軽く頭を振った。横でクロノも大あくびして起き上がり、伸びをする。
「ん……。なんだ、終わったのか?」
「ええ、バッチリよ!」
 ルッカはドライバーを指先で回して鞄に放り込んだ。
「さ、動かすわよ!」
 スイッチが押された。
 そのとたん、ロボットは立ち上がった。
「やった、成功…」
 が、マールが拍手しようとしたのもつかの間、ロボットは腕を上げたり下げたりしながら、まるでコマのようにくるくると回転し始めた。
「きゃっ!?」
「うわっ! ……またかよ!」
「変ね、こんなはずは……きゃあ!」
 三人は慌ててロボットの動きをよけた。
 ……と、しばらくしてロボットは止まり、目の部分に当たる二つのセンサーをまばたきでもするように瞬かせた。
「……?」
 近くにいたマールが恐る恐るロボットを覗き込む。攻撃してくるというわけではなさそうだ。
 無言で見つめてくるロボットに、彼女は思いついたように言ってみた。
「おはよう!」
 すると、ロボットは両手をそろえ、折目正しく会釈したのである。
「お……おはようゴザイマス」
「やった! 成功だよ、ルッカ!」
 マールが飛び跳ねて喜んだ。ルッカは当然よと言わんばかりに笑った。
「へえ……。オレはてっきり、また失敗かと」
「何か言った?」
「いや、別に」
 クロノはあさっての方向を見てそらっとぼけた。
「ご主人様、ご命令を」
 ロボットがマールに向かって言った。マールは笑い、
「私はご主人様じゃなくて、マール! それにクロノに……あなたを直したルッカよ!」
 と、順に二人を手のひらで示した。
「了解シマシタ」
 ロボットはうなずき、ルッカに向き直った。
「ワタシを直してくださったのはルッカ様デスネ」
「ルッカでいいのよ」
 ルッカが微笑むと、ロボットは首を振った。
「そんな失礼なことはできマセン」
「ずいぶん礼儀正しいロボットだなあ」
 クロノが感心した。
「誰かさんと大違いね」
 ルッカが小さく肩をすくめる。
「でも、様付けで呼ぶ方が失礼なこともあるのよ。ね、マール?」
 マールはくすくす笑った。 
 ロボットは戸惑ったようだったが、やがてうなずいた。
「了解シマシタ、ルッカ」
「よーし。で、あなたの名前は?」
「名前?」
 ロボットは首を傾げ、はたと手を打った。
「アア、開発コードのことデスネ。R−66Yデス」
「R−66Yか……イカスじゃない!」
「え〜?」
 ルッカの言葉に、マールがあからさまな不満の声をもらした。
「ダメよ、そんな可愛くないの」
「そお? 結構良いと思うんだけど……」
「ううん、ダメ、絶対ダメ! もっと素敵な名前つけてあげなきゃ」
 マールは顎に手を当てた。
「ん〜……。ね、クロノは何かない?」
「へ? オレ?」
 いきなり話を振られて、クロノはまごついた。
「ええっと、名前、名前…………ロボットだから『ロボ』とか……」
 苦し紛れに言って、ははは、と力なく頬を掻いたのだが。
「あっ、いい! それ、いいかも」
 マールはポンと両手を合わせた。
「え」
 クロノはパチクリまばたきした。却下されるとばかり思ったのに、マールはあれよあれよという間に、
「い〜い? あなたの名前はロボよ!」
 と、ロボットに言いきかせてしまった。
「ロボ、ねえ……。安直……」
 ルッカがぽそりと呟いた。
「ロボ……デスネ。メモリーインプット完了」
 ロボットはあくまで生真面目に対応した。
 かくて、彼の名前はめでたく『ロボ』と決まったのだった。
「……コレは……どうしたのデショウ?」
 ロボはふと、辺りを見回した。
「このプロメテドームには、多くの人間やワタシの仲間がいたはずデスガ……」
「言いにくいんだけど……」
 ルッカはためらいがちに話しかけた。
「ロボ、あなたが倒れている間に、ここの人たちは……多分……」
「……ソウデスカ……」
 ロボはうつむいた。すべてを言わなくても、それだけで察したようだった。
 クロノたちは気まずく顔を見合わせた。ロボットとはいっても、思うところがあるのだろう。
 ……と、ロボが顔を上げた。
「デハ、アナタ方はなぜココに?」
「私たちは王国暦一〇〇〇年から、ゲートという時空の歪みを通ってここに来ちゃったのよ」
 ルッカが答えると、マールが言葉を継いだ。
「ここにもゲートがあるって、アリスドームで調べてきたの」
「そしたらロボが倒れてて、ルッカが直したってわけさ」
 と、クロノ。
「でも、そこのドアが全然開かなくて、先に進めないんだ」
 すると、ロボは問題の扉の前にかがみ込み、何やら調べ始めた。
「……ココの電源は完全に死んでしまっているようデスネ」
 ロボは振り向いて言った。
「北にある工場に行けば、ここに連動する非常電源がありマス。ワタシなら工場のセキュリティを解除できマス」
「本当?」
 マールが顔を明るくした。
「修理してくださったのデス。今度はワタシがお役に立ちマショウ」
 ロボはぺこりとお辞儀した。
「……シカシ、いつまで非常電源がもつかはわかりマセン……。どなたかココに残って、電源が入ったらすぐにドアを開けないと」
「じゃあ、私が残るわ」
 ルッカが進んで名乗り出た。
「電源が入ったかどうか、私じゃないとわからないでしょうし」
「だったらオレも残るよ」
 クロノが言うと、ルッカは片眉を掲げた。
「どうして? ここは一人で充分じゃない。あんたは二人と一緒に行きなさいよ」
「ルッカ一人じゃ危ないだろ」
「どういう意味よ!」
「いや、そうじゃなくて……」
 クロノは髪を掻いた。
「もしかしたら、ミュータントやさっきみたいな暴走ロボットが入ってくるかもしれないだろ、ってこと。一人じゃ危険だ」
 その言葉に、ルッカはまつげを瞬き、それからケラケラ笑い出して、クロノの額を指先で弾いた。
「だーいじょうぶよ、私一人でも。あんたに心配されるほど、落ちぶれちゃいないわ」
 そしてニッと唇を枉げ、
「それより、あんたはマールを守ってあげなさい。あのカエルよりは頼りない騎士だけどね」
 クロノはふてくされて舌を鳴らした。
「わかったよ。……なんだい、せっかくこっちは親切で言ったのに……」
「まあまあ。頼りにしてるよ、クロノ!」
 マールがそんな彼をなだめ、ルッカの方を向いた。
「それじゃ、行ってくるね」
「いってらっしゃい。気をつけてね」
 ルッカはにっこり手を振った。




<オマケのあとがき>

序盤に自分が入れたオリジナル展開のせいで、本来ルッカの名台詞だった「ロボットたちは何も自分の意思で……」が台無しになってしまいましたごめんなさい汗。よもやこうなるとは自分でも思わなんだ。長編で先のこと考えないで書くとこういうことになります。皆さんは気をつけましょう。

ここのマール or ルッカのパーティキャラ選択、「やると思った」って人多数じゃないかと。はっはっは。所詮私はマールらぶらぶ野郎ですから(開き直った) でも、終わりの部分、ちょこっとクロノ×ルッカを狙ってみました(どこが?)


 TO BE CONTINUED >>> 本編第七章・2

 <<<小説目次

 <<<クロノトリガー目次

 <<<TOP