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「ねえ、クロノは私のこと、好き?」 暮れて薄暗くなってきた森の中。 少し離れた所で薪を拾っていたマールが、出し抜けにそう尋ねてきた。 あまりにも唐突で直球すぎるその問いに、オレは、せっかく拾い集めた薪を全部取り落とす羽目になってしまった。 今日の薪集めの係はオレとマールの二人だし、野営場所からは少し離れていたから、他のみんなの目はない。それは不幸中の幸いだった。 ……でも……一体、いきなり何を言い出すんだ!? オレは、呆然として、彼女を見つめ返すだけで精一杯だった。 すると、マールは自分で集めた枝を抱えたまま、オレのそばにやって来て、邪気のない顔でもう一度言った。 「ね、好き? それとも、嫌い?」 「……な……突然、何だよ?」 どうにか声を絞り出す。 脈絡のない話の振り方は、マールに限って言えば、別に今に始まったことじゃない。こっちが戸惑うことだって、何度もあった。 とはいえ、こんなに動揺させられたのは初めてで…… なのに。 マールはまるでいつもの調子で、 「だって、今まで一回も、そういうの聞いたことなかったから。ちょっと訊いてみたくなったの」 …………これだよ。 オレは内心、深々とため息をついた。 「だったら、こっちも訊くけど」 「なーに?」 「マールはオレのこと、どう思ってる?」 「好きだよ、もちろん!」 屈託なくうなずくマール。 ……動揺を抑えて、オレは、さらに問いかけた。 「じゃあ、ルッカは?」 「好きだよ、大切な友達だもの」 「カエルとか、ロボとか、エイラとかは?」 「好きに決まってるじゃない!」 「魔王は?」 「んー……まあ、好き、かな」 オレはうなだれて、もう一度、今度は本当にため息をもらした。 マールにとっては、『好き』って言葉はごく簡単に口にできることで、オレが思うほどには、深い意味も、重さもないんだろう。 そのギャップが、ため息を生む。 彼女にしてみれば何でもないようなことでこんなにうろたえて、心臓をバクバクいわせてる自分が悔しくて、ひどく情けない気分になる。 オレばっかりが意識して、余計に強く想ってるみたいで。 だから。 「……そうやって」 八つ当たりじみたもどかしさを、オレはつい言葉にしてしまった。 「軽々しく言うもんじゃないだろ。その……『好き』ってのはさ」 マールは目を見開いた。 「どうして?」 「どうしてって……」 思わず口ごもる。 こんなの、どう説明すればいいんだ? まごついていると、マールは強い信念を宿した目でオレを見、言った。 「好きなものを好き、って私は言いたいな。だって、言わずにはいられないもの。私にはたくさん好きなものがあるから」 そして、透き通るような笑顔をして。 「それに私、クロノのこと、どんなに言葉にしても足りないくらい好きだから。だから、何回でも言いたくなるの。『好き』って」 ……オレは完全に言葉を失った。 顔が茹だるほど熱い。 「ねえ、それで、さっきの答えは?」 「答……え?」 ぼんやり呟くのに、マールはうなずき、 「クロノは私のこと、好き?」 「…………」 (どうする?) 心の中で自問する。 答えなんて、決まりきっている。 だけど、 今まで言えなかったことを口にするのは、やっぱりすぐにはできない。彼女のようには、とても。 「……オレは……」 ためらいがちに、言葉を喉元にのぼらせた、その時。 近くの茂みが、ガサリと鳴った。 思わず振り返ると、囁き声がそこから聞こえた。 『ちょっと、押さないでよ!』 とか、 『狭いんだから仕方ないだろ』 とか、そういう声が。 ……ちょっと待て。 「クロノ?」 マールが不思議そうに首を傾げたが、オレはそのまま声のした方に歩み寄り、手で葉を払った。 そこには、思った通り、見慣れた顔が勢ぞろいしていた。 「……お〜ま〜え〜ら〜……いつからいたんだ、そこに!!」 「いや〜、二人がなかなか戻ってこないもんだから、様子を見に来たんだけどね」 「お取り込み中デシタので」 「邪魔する いけない思った」 「若いってのはいいなぁ」 「…………フン」 「って、なんで魔王までいるんだよ!?」 オレのもっともだろう疑問に、魔王は苦りきった ―― 気のせいか少し頬が赤いようにも見える ―― 顔でルッカを見遣り、 「そこの女に『付き合いが悪い』などと無理やり引っ張ってこられただけだ」 「……あ、そう……」 オレはなんだかどっと疲れて肩を落とした。 同時に、面映さと照れくささといたたまれなさが込み上げてくる。 そこへ、追い討ちをかけるように、ルッカが笑いながら言った。 「ま、私たちのことは気にしないで、続きやったら?」 「できるかっ!!」 オレの絶叫が森に響いた。 ……ったく…… 火照った頬を冷ますように、オレは早足で風を切って、野営場所に戻ろうとした。 すると。 「続き、今夜聞かせてね」 駆け寄って、オレの耳元にさっと口づけて。 マールは笑って体を翻した。 ………………。 きっと、深い意味なんてない。 ないんだと……思う。多分。 熱すぎる耳を手で押さえて、オレは、自分自身に必死でそう言い聞かせた。 −END− |
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<オマケのあとがき> (1)半年ぐらいまともに小説書いてなかったので、肩慣らしに……と思って書き始めたんですが……展開ありがちすぎ。どーにもこーにもマンネリであかんわ…… (2)書きたかったのは「好き」って言葉の捉え方の違い、というか何というか。想いの強さでいえば、どっちかというとマール≧クロノだと思うんですけど、「恋愛的な意味で」意識してるのはクロノの方だと思うんですよね。私は。一応それがこの話のベースです。 (3)珍しいことに魔王が出てます。ていうか、私、小説でまともに魔王のセリフ書いたの初めて(爆) 今までいかに彼を話に絡めてなかったかが偲ばれますね。でもって、ほんのちょびっと魔王vルッカ……? (4)っと、人に言われる前に自分でツッコミ。クロノ、薪はどーした。(笑) (後でもう一度拾いに行かされること確定だな……) <<<小説目次 <<<クロノトリガー目次 <<<TOP |