● LOVE OR NOTHING ●




「ねえ、クロノは私のこと、好き?」
 暮れて薄暗くなってきた森の中。
 少し離れた所で薪を拾っていたマールが、出し抜けにそう尋ねてきた。
 あまりにも唐突で直球すぎるその問いに、オレは、せっかく拾い集めた薪を全部取り落とす羽目になってしまった。
 今日の薪集めの係はオレとマールの二人だし、野営場所からは少し離れていたから、他のみんなの目はない。それは不幸中の幸いだった。
 ……でも……一体、いきなり何を言い出すんだ!?
 オレは、呆然として、彼女を見つめ返すだけで精一杯だった。
 すると、マールは自分で集めた枝を抱えたまま、オレのそばにやって来て、邪気のない顔でもう一度言った。
「ね、好き? それとも、嫌い?」
「……な……突然、何だよ?」
 どうにか声を絞り出す。
 脈絡のない話の振り方は、マールに限って言えば、別に今に始まったことじゃない。こっちが戸惑うことだって、何度もあった。
 とはいえ、こんなに動揺させられたのは初めてで……
 なのに。
 マールはまるでいつもの調子で、
「だって、今まで一回も、そういうの聞いたことなかったから。ちょっと訊いてみたくなったの」
 …………これだよ。
 オレは内心、深々とため息をついた。
「だったら、こっちも訊くけど」
「なーに?」
「マールはオレのこと、どう思ってる?」
「好きだよ、もちろん!」
 屈託なくうなずくマール。
 ……動揺を抑えて、オレは、さらに問いかけた。
「じゃあ、ルッカは?」
「好きだよ、大切な友達だもの」
「カエルとか、ロボとか、エイラとかは?」
「好きに決まってるじゃない!」
「魔王は?」
「んー……まあ、好き、かな」
 オレはうなだれて、もう一度、今度は本当にため息をもらした。
 マールにとっては、『好き』って言葉はごく簡単に口にできることで、オレが思うほどには、深い意味も、重さもないんだろう。
 そのギャップが、ため息を生む。
 彼女にしてみれば何でもないようなことでこんなにうろたえて、心臓をバクバクいわせてる自分が悔しくて、ひどく情けない気分になる。
 オレばっかりが意識して、余計に強く想ってるみたいで。
 だから。
「……そうやって」
 八つ当たりじみたもどかしさを、オレはつい言葉にしてしまった。
「軽々しく言うもんじゃないだろ。その……『好き』ってのはさ」
 マールは目を見開いた。
「どうして?」
「どうしてって……」
 思わず口ごもる。
 こんなの、どう説明すればいいんだ?
 まごついていると、マールは強い信念を宿した目でオレを見、言った。
「好きなものを好き、って私は言いたいな。だって、言わずにはいられないもの。私にはたくさん好きなものがあるから」
 そして、透き通るような笑顔をして。
「それに私、クロノのこと、どんなに言葉にしても足りないくらい好きだから。だから、何回でも言いたくなるの。『好き』って」
 ……オレは完全に言葉を失った。
 顔が茹だるほど熱い。
「ねえ、それで、さっきの答えは?」
「答……え?」
 ぼんやり呟くのに、マールはうなずき、
「クロノは私のこと、好き?」
「…………」
(どうする?)
 心の中で自問する。
 答えなんて、決まりきっている。
 だけど、
 今まで言えなかったことを口にするのは、やっぱりすぐにはできない。彼女のようには、とても。
「……オレは……」
 ためらいがちに、言葉を喉元にのぼらせた、その時。
 近くの茂みが、ガサリと鳴った。
 思わず振り返ると、囁き声がそこから聞こえた。
『ちょっと、押さないでよ!』
 とか、
『狭いんだから仕方ないだろ』
 とか、そういう声が。
 ……ちょっと待て。
「クロノ?」
 マールが不思議そうに首を傾げたが、オレはそのまま声のした方に歩み寄り、手で葉を払った。
 そこには、思った通り、見慣れた顔が勢ぞろいしていた。
「……お〜ま〜え〜ら〜……いつからいたんだ、そこに!!」
「いや〜、二人がなかなか戻ってこないもんだから、様子を見に来たんだけどね」
「お取り込み中デシタので」
「邪魔する いけない思った」
「若いってのはいいなぁ」
「…………フン」
「って、なんで魔王までいるんだよ!?」
 オレのもっともだろう疑問に、魔王は苦りきった ―― 気のせいか少し頬が赤いようにも見える ―― 顔でルッカを見遣り、
「そこの女に『付き合いが悪い』などと無理やり引っ張ってこられただけだ」
「……あ、そう……」
 オレはなんだかどっと疲れて肩を落とした。
 同時に、面映さと照れくささといたたまれなさが込み上げてくる。
 そこへ、追い討ちをかけるように、ルッカが笑いながら言った。
「ま、私たちのことは気にしないで、続きやったら?」
「できるかっ!!」
 オレの絶叫が森に響いた。


 ……ったく……
 火照った頬を冷ますように、オレは早足で風を切って、野営場所に戻ろうとした。
 すると。
「続き、今夜聞かせてね」
 駆け寄って、オレの耳元にさっと口づけて。
 マールは笑って体を翻した。

 ………………。

 きっと、深い意味なんてない。
 ないんだと……思う。多分。

 熱すぎる耳を手で押さえて、オレは、自分自身に必死でそう言い聞かせた。


 −END−




<オマケのあとがき>

(1)半年ぐらいまともに小説書いてなかったので、肩慣らしに……と思って書き始めたんですが……展開ありがちすぎ。どーにもこーにもマンネリであかんわ……

(2)書きたかったのは「好き」って言葉の捉え方の違い、というか何というか。想いの強さでいえば、どっちかというとマール≧クロノだと思うんですけど、「恋愛的な意味で」意識してるのはクロノの方だと思うんですよね。私は。一応それがこの話のベースです。

(3)珍しいことに魔王が出てます。ていうか、私、小説でまともに魔王のセリフ書いたの初めて(爆) 今までいかに彼を話に絡めてなかったかが偲ばれますね。でもって、ほんのちょびっと魔王vルッカ……?

(4)っと、人に言われる前に自分でツッコミ。クロノ、薪はどーした。(笑) (後でもう一度拾いに行かされること確定だな……)


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