● Only one ●




「ねえ、クロノ。どうかしたの? 私の顔に何か付いてる?」
 視線を感じて、マールはクロノの方を振り仰いだ。
 中世、ガルディア城の廊下。
 謁見の間で、王たちに虹色の貝殻の管理を願い出た後のことだ。
 クロノ、マール、ルッカの三人は、一旦『時の最果て』に戻ろうと、城を出るところだった。
 半ば無意識のうちにマールを見つめていたクロノは、気づかれたことにやや戸惑い、髪を掻いた。
「あ……いや、こうして見比べてみるとさ、やっぱり違うなと思って」
「何が?」
 首を捻るマールに、ルッカが横から口を挟んだ。
「リーネ王妃と比べて、じゃない? ……でしょ? クロノ」
「あ、ああ」
 図星を指されて、クロノは驚いた。
「でも、よくわかったな」
「私もちょうど似たこと考えてたのよ。初めて王妃を見た時は、本当に瓜二つだと思ったけど……。まあ、二人の年齢なんかもかなり違うしね」
「だけど、最初はこのお城の人、みんな私のことリーネと間違えたんだよね」
 マールはその時のことを思い出し、小さくため息をついた。
「……逆だったら、どうだったのかな?」
「逆?」
「うん。もしもね、私がいなくなった時に、時間を飛び越えてリーネが私たちの時代に来てたとしたら……やっぱり同じだったかな。私と間違えられてたと思う?」
 と、マールはクロノに目を向けた。
 クロノは少し考え、答えた。
「そうだな……出会ったばかりのあの時だったら、オレも間違えてたかも」
「……そう……」
 マールが目に見えて落胆の色を滲ませたので、クロノはすかさず付け足した。
「でも、今は違うから。絶対すぐわかるよ」
「あら、そんな断言しちゃっていいの?」
 ルッカが茶々を入れる。
「そうやって言って、もしこれから何かでマールと人違いしたら、あんた怒られても文句言えないわよ?」
「間違えないって!」
 力いっぱい言い返す。
 その様子に、マールはにっこり微笑んだ。
「うん。信じてる」


 ―― 間違えたりなんて、しないさ。
 返されるその笑顔に、クロノは心で呟く。

 どんなに似ていても、別の誰かに代わりはできないと、オレは知ってる。
 その柔らかな髪も、澄んだ瞳も、豊かであどけない表情も。
 ずっと見つめ続けているのは ―― 愛しいのは、他の誰でもない。
 たったひとりの彼女だから。


 −END−


<オマケのあとがき>

(1)谷川史子さんのマンガ『各駅停車』を読み返していてふと思い浮かんだ小話。短いんで正に「小」話;(ちなみに『各駅停車』は昔別れた彼氏にそっくりな男の子に告白されて…というような話です)

(2)「好きだから見分けられる」という話ですが、これと逆に「好きだから間違える」もあるとも思ってます。その人のことばかり考えるあまり人違い、ってのもありますよね。ま、逆もまた真なりってことで。

(3)意図したつもりはなかったんですけど、「昨日の夢、今日の光」と微妙につながってるっぽいですね、何だか。状況といいパーティ構成といい内容といい。でも、基本的に私の書く短編は、自分でつながってることを明記していない限りはそれぞれ独立した話というつもりで書いてます。話によって三人で行動してたりパーティ全員で行動してたり魔王がいたりいなかったりするのはその所為です。



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