● PIECE OF THE RAINBOW ●




 ある雨の日、マールは言った。
「私、雨の日って楽しみなんだ」
 少し憂鬱そうに窓の外を見つめていたクロノが振り返り、
「どうして?」
 と首を捻ると、マールはにっこり笑って答えた。
「だって、雨の後って、虹が見えることがあるもの!」

   ***

「クロノたち、いつの時代のどこへ行ってるのかな」
 時の最果てで、誰に言うともなく言い、マールは堅い石の床に腰をおろした。
「さあな」
 柵に寄りかかっていたカエルが、肩をすくめる。
「ま、別にそれほど危ないところには行ってねえだろ」
「そうそう」
 マールの隣でルッカが微笑んだ。
「そんな心配しなくても大丈夫よ、マール」
「うん……」
 マールは曖昧にうなずいた。
 そう。彼女にもよくわかっているのだ。ただの取り越し苦労だということは。
 だが、こうして離れていると、不安がどうしても拭い去れなくなる。
 もしかして、またクロノがどこか遠くへ行ってしまうんじゃないか。ついそんな風に思ってしまう。
 このところマールはクロノと行動を共にしていないので、なおさら心配になるのだった。
 そうして、何度ついたかわからないため息をつき、マールが膝を抱えた時だった。
 キュウン…と、シルバードのエンジン音が聞こえた。
 三人の目が発着場の方を向く。
「噂をすれば、ってやつだな」
 カエルが口の端を少し持ち上げて笑った。
 マールは既に立ち上がって、発着場に駆け出していた。
「お帰り! 三人とも」
 シルバードから降り立ったクロノ、エイラ、ロボに声をかける。
 やや遅れて、ルッカとカエルもマールの後ろからやってきた。
「首尾はどうだった?」
 ルッカが尋ねると、クロノは両隣のロボとエイラに軽く目交ぜし、苦笑した。
「マール。手、出して」
「え? ……う、うん」
 マールは戸惑いながら片手を差し出した。
 そして、クロノがその手のひらの上に置いたのは。
「これって……?」
「虹色の貝殻。……と言っても、カケラだけど」
 クロノは照れたように鼻の頭を掻いた。
「前にマール、虹に触りたいって言ってただろ? でも、本物は無理だから、代わりにさ」

   ***

「虹、好きなのか?」
 降りしきる雨の音を聞きながら、クロノは再び尋ねた。
「うん、大好き!」
 マールは嬉しそうにうなずいた。
「お城の窓からも時々見えてね、その度に私、もっと近くで見られたらなって思って……。できれば一度、触ってみたいな」

   ***

(覚えててくれたの……?)
 七色に輝く小さなカケラを、マールは両手でそっと抱きしめた。 
「本当は、貝殻そのものを持ってきたいとクロノは言っていたのデスガ…」
「エイラたちでも持ち上がらなかった。あれ、重過ぎる」
 ロボとエイラが口を添える。
「悪かったな、行先黙ってて」
 と、カエル。
「マールを驚かせたいってんで、口止めされてたんだ」
「でも、結局カケラしか持ってこられなかったんだからマヌケよねぇ」
 ルッカが呆れたように言う。
「これだったら、マールを連れてって、直接見せてあげた方が良かったんじゃない?」
「う、うるさいなっ! ……と、あれ、マール?」
 クロノは、うつむいて黙りこくってしまったマールの顔を覗き込んだ。
 そのとたん、マールの瞳が潤み出したので、クロノは思いっきり慌てた。
「え、あ、ご、ごめん! やっぱり一緒に行けば良かっ…」
「……ううん、違う、そうじゃないの」
 マールは首を横に振り、涙に濡れた頬をほころばせた。
「すごく、すごく嬉しかった。……ありがとう、クロノ!」

   ***

 ―― 今日も外は雨。
 この雨がやんだ時、虹が見えるかどうかはわからない。
 でも、私の心の中には、いつも大きな虹がかかってる。
 虹のかけらを手渡された、あの時から。
 虹が、……そしてクロノが、それまでよりももっとずっと大好きになったあの時から……。


 −END−



<オマケのあとがき>

(1)月ごとのテーマに合わせた妄想を描く「もうそういた」への投稿作品でした。これのテーマは『雨』。アップするにあたって推敲し直してたら、懐かしすぎて眩暈がしそうでした……うあー。書いたのは確か「小さな別離」とほぼ同時期です。

(2)最近は専らクロノ視点の話ばかりなんですが、最初のうちはマール視点が書きやすかったみたいです。ちなみに、カプなりきり100質のQ15で触れているのはこの話のことでした。



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