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ある雨の日、マールは言った。 「私、雨の日って楽しみなんだ」 少し憂鬱そうに窓の外を見つめていたクロノが振り返り、 「どうして?」 と首を捻ると、マールはにっこり笑って答えた。 「だって、雨の後って、虹が見えることがあるもの!」 *** 「クロノたち、いつの時代のどこへ行ってるのかな」 時の最果てで、誰に言うともなく言い、マールは堅い石の床に腰をおろした。 「さあな」 柵に寄りかかっていたカエルが、肩をすくめる。 「ま、別にそれほど危ないところには行ってねえだろ」 「そうそう」 マールの隣でルッカが微笑んだ。 「そんな心配しなくても大丈夫よ、マール」 「うん……」 マールは曖昧にうなずいた。 そう。彼女にもよくわかっているのだ。ただの取り越し苦労だということは。 だが、こうして離れていると、不安がどうしても拭い去れなくなる。 もしかして、またクロノがどこか遠くへ行ってしまうんじゃないか。ついそんな風に思ってしまう。 このところマールはクロノと行動を共にしていないので、なおさら心配になるのだった。 そうして、何度ついたかわからないため息をつき、マールが膝を抱えた時だった。 キュウン…と、シルバードのエンジン音が聞こえた。 三人の目が発着場の方を向く。 「噂をすれば、ってやつだな」 カエルが口の端を少し持ち上げて笑った。 マールは既に立ち上がって、発着場に駆け出していた。 「お帰り! 三人とも」 シルバードから降り立ったクロノ、エイラ、ロボに声をかける。 やや遅れて、ルッカとカエルもマールの後ろからやってきた。 「首尾はどうだった?」 ルッカが尋ねると、クロノは両隣のロボとエイラに軽く目交ぜし、苦笑した。 「マール。手、出して」 「え? ……う、うん」 マールは戸惑いながら片手を差し出した。 そして、クロノがその手のひらの上に置いたのは。 「これって……?」 「虹色の貝殻。……と言っても、カケラだけど」 クロノは照れたように鼻の頭を掻いた。 「前にマール、虹に触りたいって言ってただろ? でも、本物は無理だから、代わりにさ」 *** 「虹、好きなのか?」 降りしきる雨の音を聞きながら、クロノは再び尋ねた。 「うん、大好き!」 マールは嬉しそうにうなずいた。 「お城の窓からも時々見えてね、その度に私、もっと近くで見られたらなって思って……。できれば一度、触ってみたいな」 *** (覚えててくれたの……?) 七色に輝く小さなカケラを、マールは両手でそっと抱きしめた。 「本当は、貝殻そのものを持ってきたいとクロノは言っていたのデスガ…」 「エイラたちでも持ち上がらなかった。あれ、重過ぎる」 ロボとエイラが口を添える。 「悪かったな、行先黙ってて」 と、カエル。 「マールを驚かせたいってんで、口止めされてたんだ」 「でも、結局カケラしか持ってこられなかったんだからマヌケよねぇ」 ルッカが呆れたように言う。 「これだったら、マールを連れてって、直接見せてあげた方が良かったんじゃない?」 「う、うるさいなっ! ……と、あれ、マール?」 クロノは、うつむいて黙りこくってしまったマールの顔を覗き込んだ。 そのとたん、マールの瞳が潤み出したので、クロノは思いっきり慌てた。 「え、あ、ご、ごめん! やっぱり一緒に行けば良かっ…」 「……ううん、違う、そうじゃないの」 マールは首を横に振り、涙に濡れた頬をほころばせた。 「すごく、すごく嬉しかった。……ありがとう、クロノ!」 *** ―― 今日も外は雨。 この雨がやんだ時、虹が見えるかどうかはわからない。 でも、私の心の中には、いつも大きな虹がかかってる。 虹のかけらを手渡された、あの時から。 虹が、……そしてクロノが、それまでよりももっとずっと大好きになったあの時から……。 −END− |
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<オマケのあとがき> (1)月ごとのテーマに合わせた妄想を描く「もうそういた」への投稿作品でした。これのテーマは『雨』。アップするにあたって推敲し直してたら、懐かしすぎて眩暈がしそうでした……うあー。書いたのは確か「小さな別離」とほぼ同時期です。 (2)最近は専らクロノ視点の話ばかりなんですが、最初のうちはマール視点が書きやすかったみたいです。ちなみに、カプなりきり100質のQ15で触れているのはこの話のことでした。 <<<小説目次 <<<クロノトリガー目次 <<<TOP |