● To My Loved One ●




 夕闇の余韻が残るほの明るい空一面に、光の花が次々と開き、散ってゆく。
 建国千年祭のグランド・フィナーレを彩る、豪奢で華やかな花火たち。

「きれい……」
 祭りのざわめきからやや逸れた芝の上、マールが空を仰いで感嘆の声をあげた。
「今まで見た中で、いちばんきれい」
「ほんと、すごいよなぁ」
 その隣で、クロノが額に手をかざす。
「さすが千年祭だよな。いつもより派手だ」
「そうね……。でも、私がきれいだと思うのは、多分そのせいだけじゃないわ」
「へ?」
 意味ありげに微笑むマールに、クロノは首を傾げた。
 マールはどこかいたずらっぽい瞳でクロノを見つめ、
「きっとね、クロノと二人で見てるからだよ」

 クロノが目をぱちくりさせると、マールは花火に視線を戻し、少し寂しげな顔をした。
「私、いつもこのお祭りの花火、一人で見ていたの。城の小さな窓から。四角く切り取られた、遠い空に上がる花火を……ずっと、ずっと、ひとりきりで……」
「マール……」
「でも、今は違う。こんなに空は広くて近い。何より、隣にクロノがいる」
 にっこりとして、マールは空に両手を広げた。まるで舞い散る光の粒を受け取ろうとでもするように。
「私、知らなかった。大好きな人と一緒に見る花火が、どれだけ素敵かなんて」

 ――『大好きな人』。
 
 それは今まで幾度も繰り返された言葉。王女様お得意の、無邪気な表現。
 そのことをクロノは良く知っていた。
 ……なのに、なぜか今日は、いつもと少し違って聴こえて。

「ねえ、クロノ」
「……え? あ、ああ、何?」
 呼びかけに一瞬戸惑ってから、クロノはあいづちを打った。
(気のせい……だよな?)
 心の中で呟く。
 マールはクロノを覗き込むようにして、結った髪を柔らかく揺らした。
「きっとまた一緒に見ようね。来年も、再来年も……ずっと」
 その屈託のない明るい笑顔に引き込まれるようにクロノは微笑み、うなずいた。
「ああ。また、見ような」
「約束だよ」
 少女の小さな呟きが、打ち上げ音の切れ間に耳に届いた直後。
 クロノは目を見開いて硬直していた。
 ……唇に、唇を重ねられて。

「…………!?」
 クロノが慌てて身を引いたのと、大きな花火が頭上で弾けたのは同時だった。原色の鮮やかな光が、二人を照らし出す。
「あ……! い……今っ……?」
 片手で口を覆うクロノ。その頬が真っ赤なのは、花火の照り返しのせいばかりでないことは明白だった。
「約束のしるし。ね?」
 マールは、はにかんだふうに人さし指を唇の前に立て、片目をつぶった。
 その仕草に、ひとつの意味を込めて。

 ―― ふたりだけの秘密。


 −END−



<オマケのあとがき>

(1)「もうそういた」休止により、書き込みそびれた話。後に別の形でサイトに掲載して頂きました。テーマは『夏』だったので、花火をモチーフに。クロノで花火といえばEDのムーンライト・パレード!ということで。

(2)クロノとマールのキス☆(…)を書いたのはこれが初めてだったようです。当時これに付けたコメントを見たら、「メインEDでマールがカエルのほっぺにチューvしたことがちょっとかなり悔しかったから」というのがネタ考えるきっかけだった模様。そっかー…そういう発想だったかー…(他人事)



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