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 ラヴォスとの再戦を間近に控えた夜。

「……少し、話さない?」
 宿での夕食後、マールがクロノを呼び止めた。
 クロノが快諾したので、他の仲間たちは気を利かせて部屋に戻った。マールの様子からして、二人だけで話したそうだったからだ。
 皆が食堂を出ると、二人はテーブルの角を挟む形で座り直した。
「みんながいなくなったら、急に静かになるよね」
 マールが言った。
 クロノは笑い、
「みんな、何だかんだでかなり騒がしいもんな。ま、オレもそうだと思うけど」
 その言葉にマールが微笑む。だが、それは無理に作ったような、どこか苦しい微笑だっ た。
「……どうかしたのか?」
 見とがめて、クロノが眉をひそめる。
 マールはうつむき、テーブルの上で手を組んだ。
 言いたい何かを喉に詰まらせているような沈黙が続く。
「なあ……」
 クロノがしびれを切らして、もう一度問い直そうとした時。
「あのね、クロノ」
 マールは彼をひたと見つめて、口を開いた。
「……ラヴォスを倒すの……やめちゃおうよ」
「なんだって?」
 クロノは思わず立ち上がった。
「いきなり何を…」
「思ってたの、ずっと」
 少女の瞳は真剣で、今にも涙が溢れそうだった。
「ラヴォスを倒したら、みんなそれぞれの居場所に帰っちゃう。離れ離れになっちゃう。そんなの寂しすぎるもの! ……私、このまま旅を続けていたい。みんなとずっと一緒にいたいよ」
「マール……。だけど……」
 クロノが言葉を探して逡巡する。……と。
「……なんて、ね」
 マールは小さく舌を出した。胸の痛くなる笑顔を浮かべて。
「わかってるんだ。無理だってことぐらい」
「………」
「みんなには言わないでね。私がこんなこと考えてたなんて」
 そっと席を立ち、クロノの肩に額をつける。
「少し、弱音を吐きたかっただけなの。……困らせて……ごめん……」
 最後は声にならなかった。
 頬から伝った雫が床に落ちて弾けた。
 ……クロノはたまらなくなって、マールを抱きしめた。
「クロノ……」
「弱音なんかじゃない」
 クロノは優しく言い聞かせるように呟いた。
「マールだけじゃない。みんな思ってる。無理だってわかってても、このままでいられたら、って……一緒にいたいって、願ってる」
「……ん」
 腕の中で、かすかにマールがうなずく。
「離れたってきっとそれは同じさ。別々の時間、別々の場所で、違う道を歩くことになっても、仲間なのは変わらない。……寂しいのは、みんなが大切だって証だから、あって当たり前の気持ちだよ」
 しゃくりあげるマールの髪を撫で、クロノは囁いた。
「……そばにいるから」
「え?」
「オレが帰るのはマールと同じ時代だろ? だから……」
 言った後、照れくささで頭に血が昇った。
 マールはクロノを見上げて、潤んだ目を細めた。
「もう一回言って? ちゃんと聞こえなかった」
 クロノは、う、と詰まった。少し考えてから、
「その……だから、オレが帰るのはマールと同じ…」
「違う、その前!」
「〜〜〜〜〜〜」
 クロノは手のひらで目を覆い、それから、顔が見えないようにマールの耳元に口を寄せた。
「……そばに、いるから……!」
 マールはうなずき、クロノを強く抱きしめ返した。
 ―― こんなにも愛しい人と、同じ時の流れの中で生まれたこと。出逢えたこと。共に過ごせること。
 その奇跡に、無数の感謝の言葉を紡ぎたい気持ちで……。


   −END−



<オマケのあとがき>

(1)ルッカも同じ時代に戻るじゃん。とか野暮なツッコミはしないよーに。(笑)

(2)別にこの話に限ったことじゃないのですが、もし既に似た話を書いてる人がいたらすみません……。いつもネタがかぶってやしないか不安なのですよ;(ちなみに意識して真似た場合はネタ元を明示しますんで)

(3)ところで、今までしつこいぐらいクロノvマール書いてるのに、クロノの方からマールを抱きしめたのってこれが初めてだったり(笑)(未遂はあるが) うちのクロノって天然記念物級に奥手だなァ。おまけに好きな女の子に二回も唇奪われてるというのはいかがなものだろう……(爆)(※注:前に由空が書いた創作での話です。念の為) ええい、この甲斐性なしめッ!(笑) 男なら夜這いの一つもかけやがれ!!(ちょっと待て。)……誰かそういうの書いて下さい(オイッ!!)


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