瞳をあけてみるゆめ



 ――中世、サンドリノ村――
 明日、ビネガーの館へ乗り込もうとする日の夜――明日の準備と、武器のメンテナンスを終え、そろそろ寝ようか、とルッカが思っていた時、コンコン、と部屋のドアがノックされた。
「はーい?」
 どうせクロノだろう、と思っていたルッカは適当に返事をして顔を上げた。
「あ、ちょっと・・・」
 と、ドアを開けて顔を出したのは案の定クロノ。
「どうしたの?」
「いや、さっきココに集まったときに、落としちゃったみたいで・・・」
「忘れ物?何?」
「・・・お守り。」
「・・・は?あんたそんなの着けてたっけ?」
「いや・・・魔王の・・・」
「・・・・・・・・・・ああ!サラのお守りね!・・・って、何であんたが来る訳?直接来て捜せばいいじゃないの?」
 ルッカのもっともな質問に、クロノは床の上を這いまわりながら
「いや、何だか、『夜、女の部屋に独りで行くのは・・・』とか何とかブツブツ言い出したからオレが行く事にしたんだけど・・・」
「あいつ何だか最近カエルに似てきたわね・・・」
「・・・・・。そのセリフ、カエルにも魔王にも絶対言っちゃダメだよ・・・・・っと、あったあった。」
 ベッドの下に手を伸ばして取ったそれをポケットに入れて立ち上がると、
「それじゃ、おやすミ――」
 言いかけた彼の声が唐突に途切れた。
「――?」
 不審顔のルッカが振り向くと、そこには先程までとは明らかに違うクロノがいた。心ここにあらず、と言うのだろうか?表情がなく、目も虚ろになっている。
「ちょ、ちょっとクロノ!どうしちゃったの!?ねぇ、大丈夫!?――キャアッ!?」
 クロノは無言で彼女をベッドの上に押し倒していた――。


「何すんのよっ!?なっ・・・ねぇ、ちょっと、離してよクロノ!」
 叫びながらルッカは必死に抵抗を試みたが、クロノに強い力で押さえつけられ、ほとんど身動きを取ることが出来ない。
「イヤ!やめて――ねぇクロノ!おかしいよこんなの!?」
 半ばパニック状態になって、涙目で訴えるルッカを、クロノは相変わらず感情の消えた顔で見下ろし――
「・・・スキ・・・」
(――――え?)
 クロノの口から出た言葉にルッカは一瞬、抵抗する事を忘れた。
「・・・ルッカノコト、スキ・・・」
 うわ言のようにその言葉を呟くクロノに、ルッカの頭の中は、違う意味での混乱に陥った。
(何故?どうして?いきなりそんな事言って――)
 そう思いながらも、心の何処かで彼にこんな言葉を告げられる事を待っていたかもしれないと思う自分がいた。・・・でも、もし今ここで彼を受け入れたら、全てが変わってしまう気がして、クロノや、マール他の仲間達と、今までのように笑いあう事が出来なくなってしまう気がして――

 ――だめっ!!――

 お互いの唇が触れようとしたそのとき、ルッカはとっさに握った物で、クロノの頭を殴っていた。


「どういうつもりだったのよっ!?」
 クロノが意識を取り戻すや否や、既にショックから立ち直っていたルッカは、渾身の怒りを彼にぶつけた。
――クロノが昏倒して、またパニックを起こしたルッカの叫び声を宿の主人が聞きつけ、直後に現れた魔王と一緒に彼を下の階に運んで、傷の手当やら何やらを始めてから小一時間ほどが経っている。
「ちょっ・・・ちょっと待ってよ!何なのさいきなり!?意味がわかんないよ!?」
 驚きと困惑の表情で言い返すクロノに、
「とぼけないでよ!いきなり人に襲いかかって『あんな事』や『こんな事』しようとした挙句に、何のことか解らないなんて言わせないわよ!」
「『あんな事』って何だよ・・・。とにかく!本当に何も覚えてないんだってば!さっき、ルッカの部屋であのお守り見つけてから、何が何だか良くわからなくなって、気が付いたらこの部屋で・・・。」
「嘘おっしゃい!まったくこんな時に見損なったわよ!男なんてみんなそう――」
「・・・おい。」
 急に口を開いたのは、それまで黙ってルッカの横に立ち、2人のやり取りを見ていた魔王だった。
「何よ!?」
 噛み付くようなルッカの剣幕に、多少身を引きながら、
「い、いや・・・、お前じゃなくて・・・。――クロノ。」
「え?」
 いきなり自分の名前を呼ばれて戸惑うクロノに構わず、
「最近お前は、この女の気持を解ろうとしているのか?」
「ちょ、ちょっと・・・、いきなり何を言い出すのよ?」
 不審気なルッカの言葉を無視して、
「クロノ、お前が一度死んだ後、この女はいつも他の仲間達を励まし続けてきた・・・。あの頃は本当に皆が沈みがちだったからな・・・・・・。しかし、本当に傷付いていたのはルッカだったという事、お前は気付いていたのか?」
「――――!」
 クロノは平手打ちを喰った様な気分だった。
 死の山から帰ってきたあの日も、涙目のマールや、大騒ぎして抱きついてきたエイラ達とは対照的に、ルッカだけは、何時もと同じ調子で声を掛けてきたし、ついこの間も、もっとマールの話を聴いてあげなさいと、ルッカ自身の口から言われたばかりだった。・・・・・しかし、当のルッカは?あの日からルッカと落ち着いて話す事は果たしてあっただろうか?ルッカだって辛い事に変わりはなかった筈なのに・・・。今更ながら自分の鈍感さを痛感し、クロノはうつむいて唇を噛んだ。
 そんな様子を見ながら、魔王は少し口調を和らげてルッカの方を向き、
「・・・まぁ幼い頃から何時も一緒にいた奴が突然目の前から消えた時の気分は、俺も知ってはいるからな・・・。――もっとも、こいつがお前にとって、本当に『ただの弟みたいなモン』なのかまでは知らんが・・・。」
「わ、私は・・・別に・・・。」
 何故か言われもせずに図星を突かれたような気がして、ルッカは真っ赤になって下を向いた。
「・・・・・ルッカ、ごめん・・・俺・・・・・。」
「な、何言ってんのよ・・・!私なら全然大丈夫なんだから・・・そんな変に気にされても・・・・・・・・・・・でも・・・・・。」

 ――でも、うれしい――


 結局、クロノの傷も大した事は無かったので、とりあえず、と、皆が寝室に戻ろうとしたとき、
「――!?そういえば!さっきの事はどうなったのよ?覚えてないとか何とか言っちゃって、結局どうなのよ!?」
「ええっ!?まだ覚えてたの?」
「当り前よっ!」
「いや・・・そう言われても・・・」
「その事だが――」
 何故か申し訳なさそうな様子で、口を挟んできたのは、またしても魔王。
「・・・クロノは本当に何も覚えてはいない筈だ・・・。」
「何であんたにそんな事が分かるのよ!?」
「・・・まぁ聞け。いや・・・さっきも言ったが、こいつがお前の気持に対してあまりにも鈍感だからな・・・。私が直接言っても良かったんだが、あまり私がこんなことを言っても・・・その・・・こう・・・何と言うか・・・。」
「・・・何言ってんの?」
 クロノが微妙な視線と共にツッコミを入れるが、
「だ、黙れ!とにかく・・・とにかくだ!こういう場合は本人の口からというのがやはり一番だと思ってな、それで、あのお守りを媒体に、『傀儡の術(仮)』を使って――」
「・・・・・はい?」
 思わずルッカまでもが動きを止めた。
「・・・適当に操っておいて、あのカエル男から聞いた、いわゆる『イイ感ジ』になった所で、術を解いて、後で辻褄合わせをしようと思ったのだが・・・どうも術の制御が不十分だったらしく、結局あんなことに・・・・・って・・・・・。」
「へぇぇぇぇぇ・・・、じゃあ私はアンタに襲われたも同然、って事なんだ・・・。ふぅぅぅん・・・・・。」
 あくまで静かな口調で呟きながら、殺気を漂わせるルッカに、魔王は後ずさりしながら、
「い、いや・・・しかし!結果としては・・・こう・・・良いほうに・・・」
「そ、そうだよルッカ!魔王だって悪気があってやったわけじゃ――」
「『実行犯』に言われたくないッ」
 ガチャ!!
「――!そ、それは・・・!?」
「わー!こんな所でどっかんピストルはダメー!」
「大丈夫よ♪絶対死なないし♪」
「そういう問題ではないような気が・・・。」
「んっんっんっ、問・答・無・用!!!」


 深夜のサンドリノに轟音がこだました。


 翌日、魔王は何故か単身ビネガーの館へ行かされる破目になるのだが――
 それはまた、別のお話・・・。









〜おまけ〜

 時の最果てにて――

カエル:お?『魔王の力を借りても女の子一人モノに出来ないばかりか、逆に返り討ちにあったクロノ』じゃねえか。
クロノ:長ッ!! っていうかその言い方やめろ〜!
魔王:そもそも、何故にバレておるのだ・・・?
ルッカ:〜★(←犯人)
ハッシュ:フォフォフォ、若いってのはええのう♪
マール:(じぃー・・・・・)クロノって・・・
クロノ:違うんだぁ〜(泣)!!



      (終わり)


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