微熱



「クロノ、今日はここでもう一泊することにしたぞ」
部屋に入るなり、突然カエルはこう告げた。
朝食を済ませてから自分たちの部屋へと戻り、宿をたつ準備をしている最中のことだった。
「え……なんで?」
「マールが、お前の調子が悪そうだから今日はここで休みをとることにしたんだ。
俺は気がつかなかったが、そう言われてみれば確かに今朝のお前はいつもより口数が少なかったしな……
まあ、今日一日はゆっくり休んでおけよ。
――ああ、後でマールも来ると思うから、怒られないようにおとなしくしておけよ」
それだけ言い終えると、カエルは部屋を出てゆこうとする。
「ちょ、ちょっと待てよ。カエル!」
オレは慌てて呼び止める。
ただ、マールの言葉を伝えにきただけのカエルに、次の言葉が見つからない。
何かを伝えたかったわけではない。そうではなくて、オレはただ味方が欲しかっただけだ。
「カエルは、どうするんだ?」
「……まあ、俺はこの町の見物でもしてくるかな」
口元に、意地の悪い笑み。町の見物なんて、かえるの姿でするはずもない。そのくらいの配慮は騎士ならずとも当然だ。
「今日一日は、おとなしくしておけよ」
完全にしてやられている。
しかし、オレはただ、カエルのおせっかいを甘んじて受け取るしかなかった。

実際、オレの体調はあまり良くなかった。
気付いたのは昨日の晩。
ほんの少しだけ熱っぽいような、けだるさの前兆にある、頭がぼうっとするような感覚があった。
だから、ゆうべは早めに眠りについたのだけど……。
けれども、今朝だって多少体が重いかなという程度のことだ。
別に、わざわざ心配するほどのことでもないし、一日をふいにしてしまうほどの事でもないと思ったのだが……。

ふかふかのベッドに腰かける。
すると、急に身体が上から押し付けられるような重みに襲われた。
(戦うのは無理かもしれないな……)
マールの見立ては、正しかったのかもしれない。

そんなことを考えていると、部屋のドアがノックされた。
「クロノ、いいかな?」
カエルが言ったとおり、マールが来てくれたらしい。
「いいよ」
そっと扉を開けて顔をのぞかせるマール。
「大丈夫?つらくない?」
マールは病人を見舞うような、不安そうな表情のまま話しかけてくる。
オレが調子のよくないことを手に取るように分かっているらしい。
自分でも、このくらいなら、旅の疲れが少し出ているのかなというくらいで済ませてしまうのだが。
マールの物事に対する敏感さには、いつも驚かされる。
「大丈夫だよ」
このくらいで弱音なんて吐いていられない。
オレのことなんて、そんなに心配しなくても平気だよ。そう伝える。
「だって、クロノはいつだってがんばりすぎるんだもの」

「ありがとう……じゃあ、今日はゆっくりしておくよ」
あまり心配するマールの様子に、オレは素直に降参する。
そうい言うとマールは安心したようで、穏やかに笑顔をこぼす。
「どういたしまして!――あ……そうだ!」
「クロノ、熱はない?お昼ごはん考えなきゃいけないから」
マールはにこにこ顔で訊いてくる。
どうやらオレのために、わざわざ作ってくれるらしい。
そんな優しさに、ついつい甘えたくなる衝動を必死で抑える。
うれしさと恥ずかしさで顔が熱い。もしかしたら真っ赤になっているかもしれない。
「大丈夫だって!昼は外で食べられるよ」
「……本当に?」
本当だって、と返そうとした瞬間。オレの身体は凍りついた。
――マールの顔が、こちらへと近づいてきたから。
腰をかがめて、オレの額にマールが自分の額をあててくる。
熱を測ってくれている――正直、うれしい。

心臓の鼓動が聞こえてくる。時間が、とても長い。
花の香か何か、いい匂いがしてくる。あまりにも近すぎる、この距離。
視線のやり場がない。そして、奪おうと思えば、いつでも奪える。
がらあきの腕が、指が、ぴくりと反応する――

しばらくののち、ようやくマールが顔を離した。
「やっぱり、ちょっと熱があるよ」
(その熱の半分は、マールのせいだよ!)
オレは心の中で必死に叫ぶ。
「お昼、おかゆ作ってあげるね!」
マールはまたも笑顔。本当に心臓に悪いことこの上ない。
「あ、ありがとう……」
ゆっくり休んでね、と言い残し、マールは部屋を後にしていった。
廊下の足音が部屋から遠ざかってゆく。
そして、オレは派手なため息をついた。
まだ高鳴る胸を押さえながら、今度からは絶対に無理をしないと固く誓ったのだった。





ネタは由空さんのイラスト(※)から拝借しました。
そして由空さんのほうに贈らせていただきました。

イラストよりも接近して思いっきりおでこで熱を測りました。
しかしこの測り方、どう考えてもクロノ君が発熱します。
そしてやっぱりアブナイですね。いろいろと。
でも、それだけ遠慮無しに接近してしまうのはマールのいいところ(?)ですけどね!

する側はいいのですが、される側はどうしようもありません。
目のやり場はないですし、吐息がかかる距離っていうのは大変そうだ!
まあ、クロノ×マール党としてはそれがたまらないんですけどねー。

……ほどほどにしておきます(反省)

※管理人注:これのことです。 流星さんのサイトの掲示板に投稿しました。


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