ヒムナル賛歌



 太陽が地平に別れを告げるだけの時間、すべてを紅に染める。
 不吉な色だと言った予言者がいた。暖かい色だと笑った王妃がいた。
 夕暮れは灼熱の炎の色であり、燃える血の色でもある。切ない恋の色だと言ったのは誰だったろうか。―― もう、思い出せない。

 恐竜人の城が崩壊していく様を、若い女酋長はただ凝視している。
 『恐竜の絶滅』。歴史の教科書なら一言だが、行間には、それこそ教科書一冊でも足りないくらいのものがつまっている。勝者の感情に、敗者の感情。
 太陽は水平線に接しようとしている。すぐに気温は下がる。ただでさえ、この後には氷河期が訪れるというのだから。
 しかし、エイラは動かない。翼を持った恐竜、プテランにまたがったまま、ティラン城を見つめている。傍らにクロノとルッカがいることさえ忘れてしまったかのように。

 ―― ため息が出る美しさだ、とルッカは思う。
 上空の強い風に、淡い金髪をなぶらせたまま。薄い唇をきゅっと結んで。
 エイラは、同性から見てもこれ以上ないくらいに美しい女だ。
 素手の格闘術に長けているのに、大きな傷のひとつもない美しい肌。柔らかく波打つ月光を束ねたような色の髪。艶やかな唇。化粧品もないこの時代に、まるで奇蹟のような美しさだ。
 初めて出会ったときは、その人間離れした強さに気を取られたが、エイラは『絶世の』とか『傾城の』とかいう言葉がつく美女なのだ。
 しかし、彼女をとんでもなく美しく見せているのは、その内面だ。魂と言いかえてもいい。
 どこまでも、いっそ哀れなほどに真っ直ぐなエイラは、その意志の強さを隠すようなことはない。舌っ足らずなしゃべりで無意識のうちにオブラートにくるんでいても、瞳が如実に語る。初夏の新緑を閉じ込めて宝石にしたような瞳が。

 その魂は今、崩れゆく城を見ている。真っ直ぐに。
 何を思っているのか、ルッカには窺えない。淋しさを浮かべているようにも見えるし、好敵手を弔っているのかも知れない。
 それでも、風に吹かれ、夕焼けに照らされ、この世の誰よりも強い眼差しで一点を見つめ続けるエイラは、圧倒的に美しかった。

 灼熱の炎の色。燃える血の色。切ない恋の色。
 そして、紅は熱い魂の色。どこまでも強い生命の色。
 ―― 夕暮れはまるで彼女のようだ、と思った。



 −END−




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