光、舞う夜



一人ぼっちでいる時に、灯りを見つけたらほっとする。
何も見えない闇の中に、差し伸べる一筋の光を見つけたら勇気づけられる。
誰でも皆、光を求めて生きているんじゃないかな……




とある、宿屋の一室。
小さな村落にあるたった一軒の、旅人が一泊するための宿で、
ベッドや、その他身の回りに必要な物だけを備えた簡素な造り。
それでも旅人がよく宿泊するのか手入れは行き届いていて、上等……とは言えないが、悪くない部屋である。
クロノはベッドに腰掛けて、風呂上りに火照った体を冷ましていた。

トントン

軽く部屋の扉をノックする音が響く。
隣の部屋にはマールが。さらにその隣室にはルッカが居る。そのどちらかだろう。
備え付けの時計に目をやる。……そろそろ床に付く時間帯だ。
何の用だろうかと考えつつ、クロノは扉を開けた。

予想に反して、そこにはマールとルッカの2人が立っていた。
しかし、自分とは違い、昼間の普段着のまま。

「クロノ、少し外に涼みに行かない?」

部屋の中は、今夜も寝苦しそうな熱気である。
風呂上りに暇を弄ばしていたクロノは、すぐにうなずいた。



――月の清輝が、辺りを照らす。
マールとルッカ、そして外出用に着替えたクロノは宿を出て、歩き出した。
宿を離れるとすぐに、周囲に街の灯りは無くなっていく。
昼よりは静かであるが、夏らしく蝉の鳴き声が聴こえてくる。

「昼間は暑かったけれど、さすがに夜になると涼しいわね」

ルッカが、手で自らを扇ぎながら言う。
いつもなら、ヘッドギアを着用している彼女だが、風呂上りに少し外出しようというだけの今は、
やや短めに切りそろえられた紫の髪をあらわにしている。

彼女の隣で「そうね」とうなずくのはマール。
普段なら後ろで束ねている金の髪を、時折吹く涼風に揺らしながら。

前を歩く、普段とは違う2人の会話を聞きながら、クロノは涼を取っていた。
木々の葉を揺らす、撫でるような夜風が心地良い――



「あ……」

涼気の心地よさに眠気さえも起こりかけた頃、クロノは道端で立ち止まった。
背後のその気配に気づいて、マールとルッカも立ち止まる。

「どうしたの?クロノ」

気のせいだろうか……。マールの問いかけにも答えずに、クロノはそのまま少しの間立ちつくす。
……と、再びそれは草むらの合間に姿を現した。

「蛍……」

草むらに、ちらほらと淡い光が灯りだす。
よく目を凝らすと、小川が流れているらしい。
そこを中心にして、光は1つ、2つと増えていく。

「これ、『蛍』っていうの?」

マールが尋ねてくる。おそらく、初めて見たのだろう。
子供のようにはしゃぎながら。それでも、川辺に集まる光の群れを驚かさないように、静かに近づいてゆく。

「綺麗……」

蛍を間近にしてマールは小さく呟くと、こちらへむけて手招きをした。

「ルッカも、こっちへ来なよ」

「え、私?しょうがないわね……」

そう言うと、ルッカもまた、蛍の中心へと歩み寄っていった。
光の1つが強く輝くと、他の輝きもまた増す。
他の蛍の呼びかけに応えるように、また違う蛍が光輝を放つ。
川のほとりで群舞する蛍を、マールが手に包み込む。

「ルッカ。ほら、蛍だよ。綺麗だね……」

「そうね……。でもマール、逃がしてあげないと可哀想よ。蛍は寿命が短いんだから」

ルッカが優しく諭す。
マールは一瞬残念そうにするが、すぐに手を開いて蛍を逃がす。

逃がされた蛍は、2人の周りを踊り始める。
――他の蛍もまた、同じように。

夜闇の中に照らし出された少女は、とても眩しくて。
少女の笑顔も、その周りを舞う光もまた、楽しそうで――
その光景を見て、クロノは目を細めた……




オレの光は、ここにある。
道を照らし出してくれる、明るい光。勇気付けてくれる、力強い輝き。
一緒に居て安心できる、かけがえのない、仲間たち――



 −END−




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