「まったく……こったら傷さ、こさえてきて!」
 ぶつくさ言いながら、チチは夫の腕に消毒液を塗りつけた。
「いやー、ちょっと修業に熱が入りすぎちまって」
 悪びれる様子もなく、彼は笑う。
 一年近くも宇宙で行方知れずになって、ようやく戻ってきたかと思えば、またしても修業三昧。しかも今度はピッコロ大魔王というオマケ付きで、悟飯まで連れ出して。人造人間だか何だか知らないが、実に迷惑なことだ。

 このところ毎日のように、悟空たちは泥まみれ、傷まみれで帰宅している。
 瞬間治療薬でもある仙豆を持っているとはいえ、稀少品であるため、多少の怪我であれば自然治癒にまかせているらしい。
 もっとも、『多少』というのは彼らの非日常的な日常からくる主観であって、傍目には充分痛々しいと言うに足る生傷も絶えなかったが。
 鋼並み、どころか金剛石ばりに鍛え上げられた身は、痛覚も鈍るものなのかもしれない。こんな傷など生易しく思えるほどの経験をこれまで重ねてきたのだから。
 そして、三年後には、おそらく再び ―― …

「……チチ?」
 唐突に手を止めて黙り込んだチチを不思議に思い、悟空は首をかしげた。
 が、それもつかの間、彼は思わず悲鳴まじりの声を上げそうになってしまった。
 チチが消毒液を傷口に盛大にひっかけて、脱脂綿を強くぎゅっと押しつけたのである。
「って、いて、痛えってチチ!!」
 悟空が騒ぐのもどこ吹く風、チチはそのまま変わらぬ調子で手を動かした。

 ―― ちっとは痛がればいいだ。

 内心、小さく舌を出す。
 そう。これはささやかな意趣返し。
 不安を抱えて待ち続ける側の胸の痛みは、もっとずっと痛いのだから。



「不機嫌」のお題とかぶらないものを目指したら、
むしろこれは「苦笑」では、という絵に……(がくり)。

文中では省いてますが、悟空よりも
悟飯くんを手当てする方が先になってます。当然の如く。
悟飯くんの傷を消毒した後の会話だと思って下さい。
それと、P氏は家の中には入ってないと思います。

人外の強さを誇る彼らの肉体的な痛みの感覚、というのが
どうなってるのかはわかりませんが、
一定レベル以上の力でなければ傷を負わない身体強度があるのと、
慣れで我慢できるようになってるというだけで、
傷ができればフツーに痛いんじゃないかという解釈です。


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