空は快晴、順風満帆。遠く彼方に伸びる水平線がはっきりと見渡せた。
 彼を乗せた定期連絡船の甲板に吹く潮風は優しく、眩い日差しと海面の照り返しを和らげる。
 彼は船乗りではなかったが、港町サンマリーノに生まれ育った者の常で、ある程度は海の天候を読むこともできた。
 この分なら急な時化にも見舞われることはないだろう。魔物などの問題でもない限り、順調にレイドックの港へと着くはずだ。
 だというのに、彼の心は晴れなかった。
 まだ見ぬ土地。まだ見ぬ人々。まだ見ぬ世界。未知なる冒険の数々。彼をこうして旅に駆り立てたものたちが、きっと目の前に待ち受けている ―― その思いさえ、気持ちを浮き立たせるまでには至らない。
 飲み下せなかった小骨のように、痛みを放ちながら、胸の内に引っかかるものがある。

『てめえなんざ、もう息子でも何でもねえ!』
 突き刺さる、父親の叱責。
『どうか、どうか考え直しておくれ……』
 すがるような、母親の涙声。

 売り言葉に買い言葉、絶縁状を叩きつける形で家を飛び出した。何もかもを振り切って。
 そのことに後悔はない。―― ないはずだ。
 そう言い聞かせていること自体が後悔と迷いの証だということに、彼は気づかぬふりをする。

「……だーっ、もう、うざってぇ!!」
 周囲に人がいないのをこれ幸いとばかり、彼は思いきり叫んだ。
 もともと深く物事を考えて、あれこれ思い煩うのは性に合わないのである。
 そうだ。それに今は、レイドックに着いてからどうするか、の方が重要だ。
 あの国では、王と王妃が謎の病で眠り続けているとかいう話だが……どういうことなのか、少々首を突っ込んでみるのも面白いかもしれない。
 ……と。
 ぐう、と腹の虫が鳴いた。
 慣れないことを考えていたせいか、エネルギーを使いすぎたようだ。
 船室に下りて、飯でも食おう。
 彼は甲板から立ち去ろうとし ―― 一度だけ、振り返った。
 広がる海原。その向こうにある、彼の故郷。

 ―― いつか帰る日が来るのだろうか。あの家へ。


ハッサンスキーとして、ここぞとばかり絵もSSも気合い込めて書いてみたり。
そのおかげか、この企画の中では最もすんなりと短時間でSSが仕上がりました。

ゲーム中で、「(大工が)イヤで家を飛び出して」とハッサン自身の言があって、
ハッサンの親父さんも「勝手に家をおん出たヤツなんか…」とは言ってますが、
実際のところ、喧嘩別れの末に家出したとは限らないんですよね。
ただ、なんとなく彼のキャラから考えると、人知れずこっそり抜け出したんじゃなく、
正面きって両親に話を切り出して交渉決裂して旅に出た、というイメージかなと。
で。考えるより先に身体が動くところはあるだろうとは思うんですが、
けして単純明快猪突猛進ではないと思うんですよ。
イベント毎での台詞を見る限り、むしろ思慮深い方じゃないかと。
……って、夢見すぎでしょうか。

SSではこの時点でレイドックのお家事情に若干絡ませてますが。
いちばん初めの(王子としての)主人公との出会いは
レイドック城での回想シーンで少し描かれているものの、
どの時点でレイドックの状況を知ったのかはわからないんですよね…。
てか、城に忍び込もうとしたっぽいのに「あやしいもんじゃない」って!(笑)
あげく王子さま相手に「ところであんたは?」って!(笑)
……豪儀というか大物というか。でも主人公もあんまし気にしてなさそう。


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