西に傾いた太陽が、空を茜色に染め上げる。 夕映えに包まれた世界の中、彼女はそっと佇んでいた。 長く艶やかな金色の髪を背に流し、端正な顔をわずかに伏せて、物憂げに瞳を閉じている。ほっそりした指先で胸に抱くのは、陶磁を思わせる小さな笛。一枚の絵画さながらの光景がそこにあった。 だが、そもそも彼女の不幸というのは、その整った容貌に端を発していたのかもしれない。 まだ年端もいかぬ、幼い少女時代のことだ。 暴君として恐れられていた、時のガンディーノ王に見初められた彼女は、そこを悪名高きギンドロ組につけ込まれた。両親の借金のかたに、身売りさせられる形で城に差し出されたのだ。 もっとも、両親といっても生みの親ではなかったが ―― それでも、彼らにとっても、そのことは苦渋の選択だった。少なくとも、彼女はそう信じていた。年老いた父母は、義理の子らにも周囲の人々にも優しく、純朴だったから。逆に考えれば、純朴さ故にそのような道を歩まざるを得なくなった、と言えたけれども。 そうして城に召し上げられてからも、目を惹く外見は彼女にとって負の方向に働いた。 嫉妬深い正王妃は、自分よりも若く美しい娘たちが王に献上されると、そのことごとくを奴隷の身分に貶め、地下牢へとつないでいた。彼女もその扱いをまぬがれず、幽閉の憂き目をみた。 彼女は思う。 もしも ―― もしも、何かが少しずつ違っていたならば、自分にも、つつましくも穏やかな幸福が持ち得たのだろうか、と。 あの国がガンディーノでなかったならば。王があの王でなかったならば。両親の負債先が、ギンドロ組でさえなかったならば ―― あるいは、たった一人の血を分けた弟とも、理不尽に引き裂かれはしなかったのだろうか、と。 ……いや、よそう。今さら詮のないことだ。 何も恨まなかったと言えば嘘になる。 だが、だからといって、世を疎み、全てを憎む気にもなれなかった。そうした方がずっと楽だと知っていても。考えることをやめ、昏い感情に身を委ねる ―― そんな風に生きるには、彼女の心根は優しく、気高すぎた。 この手の中にある笛を託し、牢から逃がしてくれた老人のためにも、彼女は折れず、ひたむきに生きることを選んだのだ。 そして、今。 彼女は待っている。 因と果が巡り、時が満ちるその瞬間を ―― 己に課せられた使命を果たす、その時が来ることを……静かに、待ち続ける。 |