ふわふわとしてひどく頼りなかった。
 物の例えではなく、透き通っている自分の身体。
 こんなにも周りは鏡、鏡、鏡だらけだというのに ―― さすが『月鏡の塔』と呼ばれていただけはある、と変に冷静な自分が頭の片隅で感心していたが ―― そのどれにも、彼女の姿は映らない。

 あたしはいったい、どんな顔をしているの?
 バカみたいな疑問だと思う。
 けれど、その疑問を「バカだなあ」と笑い飛ばしてくれるような人はいない。
 何しろ、彼女の姿が見える人間は、誰もいなかったのだから。
 彼女が確かにここに存在しているということがわかるのは、彼女自身だけだった。
 そして、彼女自身も、自分の顔はわからない。わかるのは名前だけ。他は……思い出せない。覚えていない。気づいた時には、見知らぬ街にいた。
 不思議な力を持ち、真実のみを映し出すというラーの鏡 ―― 街で耳にした、そんな噂話を頼りに、この塔へやってきてはみたけれど。

 床にしゃがみ込み、膝を抱えてうずくまる。
 頼りない腕。頼りない足。
 でも、何より頼りないのは自分のこの心。
 寂しい。心もとない。ざわざわと胸が騒いで落ちつかない。
 ―― 何かが。
 確かに何か、とても大切なことが自分にはあったはずなのに。
 思い出せない。全く、思い出せない。
 思い出さなくちゃ。
 早く、早く、思い出さなくちゃ。

(……思い、出……したく、ない……!)

 意識の奥、悲鳴を上げる心。
 一瞬の激情のほとばしりに、彼女はびくりと顔を上げた。
「…………?」
 頭を振り、まばたきする。
 ……よくわからない。
 つかみ損ねた魚のように、それは容易く思考からすり抜けていってしまった。
「まあ……いいか」
 声に出して彼女は呟いた。
 そうしないと、自分がここにいることも忘れてしまいそうだったから。
「さて。ラーの鏡、探そうかな」
 気分を変えるためにわざと明るくさばさばした口調で言い、彼女は立ち上がった。


物怖じせずに、人なつっこい感じで(そして多少強引に・笑)
パーティに加わるバーバラですが、実際、とても寂しかったんだろうと思います。
記憶もなく、頼れるものが何もない中で出会えた主人公たちは
ものすごく救いになったんじゃないかなー、とドリーム全開で妄想。

小説版DQ6の影響で、バーバラは最初から月鏡の塔の中にいて
そこで意識を取り戻した、というような気がしてたんですが、
ゲームの方の台詞をちゃんと見返してみたら
「人のウワサ話くらいは聞けたから」「それでここまで来たけど」
って言ってるんですよね。つまり、彼女自身の意志であそこに行ったわけで。

ただ、そうなると彼女がどうやってあの塔に入れたのかが謎なんですよね…。
イリアとジーナのイベントから考えれば何十年も封印されてたはず。
「夢」の存在だから「現実」の物には触れられない、と考えれば
扉を通り抜けられたという見方もできなくはないですが、
それだと今度は夢見のしずくをかけられる前の主人公たちが
どうして現実側でモンスターと戦ったりできたのか、という話にもなるんですよね。むう。
さらに言えば、バーバラがオープニングでの黄金竜という解釈をした場合に
あの竜が実体を持ち得たのは何故か、という疑問も出てきますし。
(夢と実体に分かれる前の主人公たちが背に乗れた、
ということは実体があるわけですよね…)
まー、あんまり深く考えすぎなきゃいいんでしょうけど。


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