『声』が聞こえた気がして、彼は天を仰いだ。
 その瞳には、まだらに層をつくる雲の波が映っている。
 だが、彼が本当に見ていたのは、その向こうに坐すものだった。

 神の御使いとして知られているゲントの民。癒しをほどこす神聖魔法の使い手にして、同時に勇敢なる戦士でもある者たち。その一族に名を連ねる、幼き僧兵である彼は、これまでにも『声』を耳にしたことがあった。
 『声』の主は、ある地では『山の精霊さま』と呼び習わされ、また、ある地では『精霊ルビス』とも称されている。すなわち、精霊神 ―― 神である。

「時が……近いのですね」
 一人ごちて、地上に視線を落とす。
 そこにはいくつもの墓標が並んでいる。古いもの、新しいものの別はあるが、人は天の下に平等であるという教えにより、墓碑は全て同じ大きさだ。
 復活の奇跡をも成せる一族といえど、人である以上、けして万能ではない。天寿を全うした者たちももちろんあったが、手を尽くしても救えなかった命もまた、存在していた。
 そう。例えば、足元に眠る、彼の両親のように。

 彼は自分のことを不幸だと思ったことはなかった。
 悲しまなかったわけではない。辛くなかったわけではない。
 けれど、彼には厳しくも優しい祖父がいた。温かく見守ってくれる、村の人々がいた。
 不幸だ、などという発想は、彼らに対する非礼と冒涜に他ならない。

 ゲント流の作法で辞去の礼を送り、彼は墓所を後にした。
 風が黄色の法衣をなぶり、足元の葉と砂を緩く巻き上げる。
 時が近い。……旅立ちの日は、近い。
 胸の中、決意を固める。

 ―― 自分が味わった喪失感を、他の人々に与えずに済むように。
 ―― 己の手の届く限り、悲しみを減らしていく、そのために。

 彼は、強く心に誓う。


SSの基本にしているのはゲーム中に出てきた情報ではあるんですが……
すみません、これ他のに比べてかなり捏造度高いです;
チャモロの両親はゲーム中には出てこないので
たぶん亡くなってるんじゃないかなー、という推測の元に書いてます。
つーか、そもそもあの長老のじっちゃんが
チャモロの実の祖父かどうかもはっきりしなかったりするんですけども。
深読みすれば、たとえば、ゲントの民ではあるけれど実はチャモロは完全な孤児で、
便宜上「おじいさま」と呼んではいるものの長老と直接血は繋がってない、
とかいう可能性もなくはないんですよねー。ゲーム中では明確に言及されてないし。
まあ、私なりの解釈……ということで。

実を言えば、絵を描く前は墓所を舞台にするつもりは全くなくて。
他キャラの構図との兼ね合いで俯瞰にしたら
足元がスカスカで気になるなー何かないか何か……
あ、僧侶だしお墓でいいか。とむちゃくちゃ安易な決め方をして、
それでこういう話がなんとなく浮かんだということだったりします。
(こんな風に、絵を考えてたら連想でストーリーができる、というパターンけっこう多いです)


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