『声』が聞こえた気がして、彼は天を仰いだ。 その瞳には、まだらに層をつくる雲の波が映っている。 だが、彼が本当に見ていたのは、その向こうに坐すものだった。 神の御使いとして知られているゲントの民。癒しをほどこす神聖魔法の使い手にして、同時に勇敢なる戦士でもある者たち。その一族に名を連ねる、幼き僧兵である彼は、これまでにも『声』を耳にしたことがあった。 『声』の主は、ある地では『山の精霊さま』と呼び習わされ、また、ある地では『精霊ルビス』とも称されている。すなわち、精霊神 ―― 神である。 「時が……近いのですね」 一人ごちて、地上に視線を落とす。 そこにはいくつもの墓標が並んでいる。古いもの、新しいものの別はあるが、人は天の下に平等であるという教えにより、墓碑は全て同じ大きさだ。 復活の奇跡をも成せる一族といえど、人である以上、けして万能ではない。天寿を全うした者たちももちろんあったが、手を尽くしても救えなかった命もまた、存在していた。 そう。例えば、足元に眠る、彼の両親のように。 彼は自分のことを不幸だと思ったことはなかった。 悲しまなかったわけではない。辛くなかったわけではない。 けれど、彼には厳しくも優しい祖父がいた。温かく見守ってくれる、村の人々がいた。 不幸だ、などという発想は、彼らに対する非礼と冒涜に他ならない。 ゲント流の作法で辞去の礼を送り、彼は墓所を後にした。 風が黄色の法衣をなぶり、足元の葉と砂を緩く巻き上げる。 時が近い。……旅立ちの日は、近い。 胸の中、決意を固める。 ―― 自分が味わった喪失感を、他の人々に与えずに済むように。 ―― 己の手の届く限り、悲しみを減らしていく、そのために。 彼は、強く心に誓う。 |