岩肌が剥き出しになった、殺風景な渓谷が続いていた。 薄墨色の暗雲は不規則な畝を成し、頭上を覆っている。 湿り気を帯びた風が頬を撫で、外套の裾をはためかせる。じきに雨模様になりそうだ。 ここを抜ければ、次の街は間もなくのはずだった。降り出す前にたどり着けるよう、彼は足を速めた。 彼は剣を探していた。 およそ切り裂けぬものなどないような、天下無双の剣を。世界一の剣を。 ……いや。 より正確に言うなら、彼は力を欲していた。その具現を剣に求めたのである。 ガンディーノと呼ばれた国で、かつて、彼は唯一無二の大切なものを奪われた。信じていたものに裏切られる形だった。 そして、それを取り戻すには、彼はあまりに幼く ―― あまりに無力だった。 力を持たぬ者は略奪され、虐げられ、蹂躙される。そのような非道がまかり通っている国だった。 弱ければ奪われる。信じれば裏切られる。 ―― ならば。 強くなればいい。信じなければいい。 他者は利用し、利用されるもの。頼れるのは、自分自身だけなのだから。 ……最も守りたかったものを守れなかった彼が選んだのは、そういった道だった。 あれから幾年たったのだろう。 失われた大切なものの手がかりは、杳として知れないままだった。 いつしか、彼の心にはあきらめという影が忍び寄り ―― やがて、手段であったはずの「力を追い求める」ことが、目的に変質していった。 それは、後悔しても戻らぬ過去を贖うためだったのか……あるいは、埋めようのない失望と、何もできなかったという罪悪感を慰めるための、代償行為なのか。彼自身にもよくわからなかった。 進むうち、岩と砂ばかりの風景が次第に緑の入り混じる草地に変わり、左右に切り立った崖も低くなっていた。道の先には街並みと思しきものと、その中でもひときわ目立つ城が見てとれる。どうやら渓谷は越えたようだ。 ふと、彼は足を留めた。視界の端によぎった木の立札に目を惹かれたのだ。 雨風にさらされた形跡はあるが、朽ちたりはしていない。比較的新しく立てられたものらしかった。 そこに書かれた内容を見て、彼は皮肉げに口の端を持ち上げた。 『魔物を倒さんとする強者求む! 我と思わんものは我が元へ来たれ!』 末尾に記されたのは、アークボルト国王の名。 確か、どこかで耳にしたことがあった。アークボルト王家に代々伝わる宝剣の話を。 ……もしかすると、利用できる機会かもしれない。 外套を翻し、王城を目指して、彼は再び歩き出した。 |