断末魔の雄叫びをあげて魔物の巨体が揺らぎ、地響きと共に倒れていく。 轟音の余韻と砂煙が漂う中で、彼はその魔物が動かなくなったのを見て取り、肩で荒く息をついた。気が抜けて地面に膝が落ちてしまうのを、手にした剣を杖代わりに支える。 舞い上がった埃が風に吹き散らされ静まるのを半ば無意識に見届け ―― そうしてから、ようやく彼は辺りを見渡した。 ……どうやら、うまく逃げてくれたようだ。 北大陸、モンストルの町に程近い街道。 魔物に襲われそうになっている母子連れに出くわし、咄嗟に助けに入った。 正直なところ、余裕のある戦いではなく、こちらも無傷というわけにはいかなかった。そのため、彼女らには『早く逃げろ』とひとこと叫ぶのが精一杯だったが、攻撃の余波に巻き込んだりはせずに済んだらしい。彼は胸を撫で下ろし、眉間に寄せた皺を薄くした。 何者かによって魔王ムドーが倒された、という噂は既にこの地にも伝わっていた。 しかし、その配下であるはずの多くの魔物たちは未だあちらこちらで大手を振り、跋扈しているままだ。 今しがた倒したモンストラーも、そういった内の一匹だった。町やその近隣に現れてはたびたび暴れまわり、モンストル界隈の人々の頭を悩ませていたのである。 とはいえ、少なくともこれでひとつは憂いも減ったことになる。 怪我と疲労で身体は重かったが、達成感で彼の心は軽くなった。 なんとか立ち上がり、朗報を町へと運ぶために歩き出す。 ―― だが。 彼はまだ知らない。 背後で倒れた魔物が身じろぎし、最後のあがきに牙を剥こうとしていることを。 その結果がもたらす、呪いにも似た病のことを。 そして、それらはもうひとつの新たな物語の幕開けに過ぎないのだということを……今の彼は、知らない。 |