● あどけない話 ●




「あたしも、ミレーユみたいな髪だったら良かったな」
 床に腰を下ろして、自分の赤い髪を指に軽くまとわせながら、あたしは呟いた。
 その傍らで剣の手入れをしていたソールが目線を上げ、こちらを見る。
 馬車での待機中のことだった。
 他のみんなは出かけていて、あたしたちは居残り組。
 作業の邪魔になるのも悪いから、あたしはソールにあまり話しかけてはいなかった。
 今の言葉も、半分は独り言みたいなもので。
 でも、彼は手を動かしたままでも耳を傾けてくれているようだったから、あたしはさらに続けた。
「あんな綺麗な金色で、サラサラの髪。女の子だったら、みんな憧れると思う」
 そう。
 本当に、ミレーユの髪は綺麗だ。
 あたしのこんな赤毛なんて、比べ物にならないぐらい。
 本人は『枝毛があってイヤになっちゃう』なんて言ってるけど、それがいっそ厭味に聞こえてしまうほど、流れるように艶やかな金髪。
「あーあ、うらやましいなぁ」
 もてあそんでいた髪を、ぴんと指先で弾く。
 するとソールが首を傾げた。
「……そういうもんかな?」
「そういうもんなの!」
 ―― 女心がわかってない。
「でもさ」
 ソールが磨き終わった剣を鞘に納め、あたしの前にしゃがみこんだ。
「おれはバーバラのこの髪、好きだけどな。夕焼け空みたいで」
 あたしの髪を手にとって、微笑む。

 ……………。

 きっとあたしは今、髪の色に負けず劣らず、赤くなってるに違いない。
 この人は時々、こんなふうにすごいことをさらりと言ってのける。
 彼自身にそんな意識はないのだろうけど。
 それが証拠に、彼の言い方は、まるで駄々をこねる妹をなだめるようなものだった。
 ……そのことがなんだか悔しくて。歯がゆくて。
 嬉しさとくすぐったさを押し隠して、あたしは、ちょっと意地悪をする。

「ねえ、ソール。それって、あたしのこと口説いてるの?」
「へっ?」
 意表を突かれた顔。
 それが、たちまち朱に染まる。
「え、あ……いやあの、そ、そういう意味じゃなくって……!」
 慌てふためいて、ソールは髪から手を離し、尻餅をついた。
 その焦りぶりがあんまり可笑しくて、あたしはくすりと笑った。
「なんてね。……だけど、あたしが夕焼けなら、ソールは青空だね」
「え?」
「その髪」
 あたしはソールの髪を指さした。
 くせの強い、青い髪。
 深みのある、コバルト・ブルー。
「……そうかな? そんなに薄い色でもないと思うけど……」
「いいの! あたしが青空って言ったら青空なの!」
 きっぱりはっきり言い切ると、ソールは苦笑した。
「はいはい」


 それは、くだらない思い込み。
 夕焼け空と、青空と。
 色を変えても同じものだから、なんて。
 ……おそろいだね、なんて。
 そんなことで嬉しくて。
 好きじゃなかった自分の髪が、好きになれる。
 自分でも、バカみたいだと思うけど。


 ―― こんな気持ちをありがとう。


 −END−



<オマケのあとがき>

……「勝手にやってろ」とか思いませんでしたか読まれた方。私は思いました。誰かこの天然たらし野郎な主人公を何とかして下さい。自分で書いててむずがゆいです。

元になったのは中島みゆきさんの曲『瞬きもせず』の1フレーズ。何でこの曲からこんな甘ったるい話が出来上がるんだかって気もしますが。でもこの曲、私ひそかに主バのイメージだと思ってます。特に『MOVIE THEME VERSION』の歌詞。機会があればご一聴下さいv

赤い髪→夕焼けという表現はクロノでもちょっと使ったことあるんですが、こっちも元ネタがあって、谷川史子さんのマンガ『王子様といっしょ!』からきてます。そのマンガだと男の子の方が赤い髪でしたけども。


<<<小説目次

<<<ドラゴンクエスト目次

<<<TOP