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 悲喜こもごもなざわめきで満たされた広いホールに、極彩色の華やかな光が踊っている。
 コインの擦れ合う音がひっきりなしに響き、汗のすえたような匂いに、酒と紫煙と香水とが入り混じる。
 貴族に農夫、商人に荒くれ者。富豪も貧者も、老若男女の別なく等しく勝者と敗者に二分される場所。
 一攫千金の夢と一時の興を求める人々の、どこか退廃的な熱が漂う娯楽の殿堂、カジノ。
 手の中には五枚のカード。そして、いくばくかのコイン。
 ポーカーの卓でそれらを見比べて、ソールは難しげに眉を寄せた。
「調子はどう?」
 背後から少女の声がした。
 振り返ると、バーバラがこちらの手元を覗きこんでいた。
「うーん……いや、あんまり」
 隣の空いた席を勧めてやりながら、ソールは苦笑を返した。
 喜怒哀楽が顔に出やすい性質ということもあり、この手の賭け事はあまり得意ではなかった。ただ、そのわりには土壇場での勝負強さがあるので、案外その辺りで運の収支バランスがとれているのかもしれない。
「バーバラは?」
「あたし? あたしは今日はバッチリ!」
 真横にちょこんと腰かけて、バーバラは得意そうに片手を広げてみせた。
 碧玉を抱いた指輪が、天井の明かりを受けて、手のひらの上でささやかに存在を主張している。どうやら既に景品交換も済ませてきたということらしい。
「そっか。ずっとそれ欲しいって言ってたもんな。おめでとう」
 素直に祝福を送る。
 装飾品としての可愛らしさもさることながら、呪文が得意なバーバラには、精神力を回復できる祈りの指輪はうってつけといえるだろう。いいなあ、と前々からため息混じりに景品一覧を眺めていたのを知っている身としては、自分のことではなくても、一緒に喜びたくなる。
「と、いうわけで。あたしは今、とっても機嫌がいいの」
 バーバラは喜色満面、唇をほころばせた。
「だから、特別に、運の良さをおすそわけしてあげる」
「おすそわけ?」
「そ。ちょっと耳貸して」
 内緒話なんだろうかと、ソールは頭を傾けた。
 すると、バーバラの指先が耳たぶに触れる感触がして、そこがわずかばかり軽くなった。どうもイヤリングを取られてしまったようだ。
「え、なに?」
「いいから、もう少し待って。……はい、代わりにこれ」
 そうしてバーバラは彼女自身のイヤリングを外して目の前に示すと、ソールの耳に改めてそれをつけた。
「……えーと……?」
「ジンクスよ、ジンクス。ツイてる人の身につけてるものと、自分の身につけてるものを交換すると、ツキを分けてもらえるんだって」
 無くさないためになのか、あるいは互いに身につけてこそジンクスが完了するということなのか、ソールの金のイヤリングを自分の耳につけつつ、バーバラは言った。
「おまじないみたいなもんか」
 白珠の飾りを横目に、ソールは指先で軽く弾いてみた。
「これ、効くの?」
「当たるも八卦、当たらぬも八卦よ」
「……それは何か違うような」
「んー、だったら『鰯の頭も信心から』で。まあ、減るものでもないんだし、試してみてもいいでしょ?」
 ―― こういう場合、その格言もどうなんだろう。
 そんな風に思わなくもなかったが、彼女が純粋な好意で言ってくれているのはよくわかったので、ソールは有難く受け取っておくことにした。
 幸運は、気の持ちようで招き寄せられるものだという話もある。そう考えれば、バーバラの言葉もあながち的外れではない。
「さあ、がんばって!」
 ぽんと背を叩き、ウインクひとつ。
 彼専属の、幸運の女神が微笑んだ。


 −END−



<オマケのあとがき>

イラストページの「バカップルに10のお題」3.ジンクスからの派生。以前書いた「予感」同様、イラスト先行でした。SSとしてはかなり半端な短さなので、こうして単独で文章ページにアップするかどうしようか大分迷ったんですが。でも、何気に字数そのものは「世界中の誰よりきっと」「あどけない話」よりちょっとだけ多いんですよね(単にそれらが短すぎるだけという説もある)。

カップル間でのアイテム交換というのが萌えでこんな構図になったんですが、実際にこれと同じジンクスがあるかどうかはよくわからなかったりします。発想の原点は花嫁のサムシングボロー(幸福になった花嫁から持ち物を借りると良いという話)だったので。ついでに、主人公とバーバラの耳飾りは個人的な好みでイヤリングにしたものの、もしかしてピアスが正しいんでしょうか……スライムピアスあるしなー。


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