● 世界中の誰よりきっと ●



 其は夢の国。
 描きし思念、あやなして
 無限の大地、つくりゆく。

 想いは力。
 想いは証。

 曰く。
 在ることは、想うこと。
 想うことは、在ることと。
 
 なれば、…………

   ***

 夜の底に揺らめくささやかな焚き火を、バーバラは一人座り込んで、見るともなく見つめていた。
 風のない穏やかな晩である。
 空には上弦の月と、たなびく薄い雲。
 木立に囲まれた草地で耳に入るのは、虫たちの歌声と目の前の炎のはぜる音、そしてほど近くにある馬車内から発せられるいびきぐらいか。
 扉越しにも盛大な騒音の主は、考えるまでもない。ハッサンだ。
 もう耳なじみになって随分と久しい音ではあるが、それでも、こうして外に出て火の番と見張りをしている方がよほど眠りやすい気がすることも、ままある。また、そう考えるのは決してバーバラだけに限った話ではない。
 だから。
(多分、今夜も……)
 彼女が思った時、とりわけ大音量のいびきが響き、続いて誰かが起き出す気配がした。ゆるゆると、馬車の戸が開く。
「おはよ、ソール」
 そっと手を振って、バーバラは不寝番の交代手を出迎えた。
 本来ならば入れ代わるにはやや早い時間だが、寝つけなかったり、今のように目を覚まされてしまったりした場合には、早めに起き出してきて、交代の頃合まで火の側で舟をこぐことが彼の定例と化しているのだった。
 もっとも、バーバラは正直そのことを好ましく思っていたりもする。ゆっくり眠れなかった本人には少し悪いが、こんな風に二人でゆるやかな時を過ごせるのは、何より嬉しい。
「ああ……おはよう」
 生あくびを噛み殺しながらソールは隣に腰を下ろした。
 おはよう、と口では言いつつも、既にまぶたは眠る態勢を整えている。
 バーバラは苦笑混じりに言った。
「肩、貸そっか?」
「……ん。ありがとう」
 まどろんだ表情で、ソールは華奢な肩に頭を預けた。
 優しい重みと、温もり。
 その心地良さが、少女に口を開かせる。
「ねえ、ソール」
「うん……?」
 夢うつつな彼は、曖昧なあいづちを打っただけで、顔は上げない。
 でも、その方がかえって好都合だ。
 面と向かって言葉にするには難しいことだから。
「ここってさ……この世界って、『想い』が形になったものだよね。強い想いほど、大きく作用して、確かな存在になる……」
「……ああ」
「だったら、あたしは」
 ――― たとえ実体を持たなくても。
 あなたを強く、強く想っているあたしは。
「この世界の誰よりも、きっと確かに存在してるんだと思う」
 肯定を期待して、返事を待つ。
 ……が。
「違うよ」
 意に反した答えが、胸を刺した。
 息苦しくなって、思わずバーバラは声を荒げそうになる。
「どうして…」
 しかし、それを遮ってソールは呟いた。
「……おれを忘れてる」
 まるで寝言のようにして。
「おれだって、同じかそれ以上に……存在してるから……」
「…………」
 バーバラは呆れ顔になり、それから、小さく笑った。
「……バカ」

 ――― 夜は甘やかに更けていく。

   ***

 其は夢の国。
 切なる望み、礎に
 確たる生命、育まん。

 そして、やがていつの日か ―――



 強き想いは世界を超える。


 −END−



<オマケのあとがき>

まず補足。自分の中ではこの二人、エンディング後に再会できたことになってます。で、それが最後の「世界を超える」という言葉につながってます。その辺りの話もいずれ書けたら書きたいんですけど……はたしてどうなるやら。(※2010年追記:「君の空へ」で書きました)

ネタ自体は1年ぐらい前に思いついたものです。確か「この世界の誰よりも確かに存在している」といった感じの言葉が最初に浮かんで、そこから話を繋げたような。またわかりにくい話になってるかも。


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