「はい、リッド、お待たせ!」
そう言ってファラができたてのオムレツを手渡すのに、リッドは舌なめずりせんばかりに相好を崩した。 「おお、待ちかねたぜ!」 手には既にスプーンが握られ、準備万端、といった風情。 いつもながらの光景であるが、その食い意地がなんだか微笑ましくて、ファラの口元は思わずほころびそうになる。 ……と、リッドがオムレツを見て、少し不思議そうにまばたきした。 「何だ? メルニクス語か、これ?」 ふんわり焼かれたオムレツの上には、彼の言う通り、文字らしきものがケチャップで描かれている。 ファラは笑い、 「あ、気づいた? それね、さっきメルディが教えてくれたの」 「メルディが?」 「うん。リッドに作ってるオムレツだって言ったら、『こう書くといいな!』って」 「ふーん……。で、何て書いてんだ?」 リッドが訊くと、ファラは首を傾げた。 「それが、わたしにもわからないんだよね」 「は? 何だそりゃ」 「だって、訊こうと思ったら、後で教えるからってキールと買い物に行っちゃったんだもん」 リッドは呆れ顔で、その正体不明な文字に視線を落とした。 「まさかオレの悪口とかじゃねぇだろうな」 「うーん、それはない……と思うけど」 「……ま、いいや。いっただきまーす」 *** 「ねえ、さっきの言葉、結局どういう意味だったの?」 買い物から戻ってきたメルディに、ファラは尋ねてみた。 「さっき?」 「ほら、オムレツの。『気持ちを込めて書くといい』って言ってた……」 リッドには話さなかったが、そのようなやりとりもあったのである。それで悪口ではないだろうと判断したのだが…… 「ああ、アレな!」 メルディはポンと両手を合わせ、とびっきりの秘密を伝えるように耳打ちしてきた。 それを聞いたとたん、見る間にファラの頬が染まり、耳まで真っ赤になる。 「……な、何それ……」 「あとでリッドにも教えるよ」 無邪気に笑うメルディに、ファラは慌てて叫んだ。 「ダメ! ぜーったいダメッ!!」 すると、メルディはきょとんとして、 「なぜか? とってもステキな言葉なのに〜」 「何ででも!」 ファラはきっぱり言い切った。 「いい? リッドには絶対言わないでよ、メルディ。約束だよ!」 *** ―― 教えられるわけないじゃない。 心の中でファラは呟いた。 『あの字な、メルニクス語で“キス”が意味もあるよ。 三つ重ねると、“愛を込めて”になるな!』 |