幸運を呼ぶ…


 中世・パレポリ村…
『キャアアアアアア〜〜〜〜ッッ!!』
 宿屋の一室…今はマールがいるはずの部屋から、絹を引き裂くような悲鳴が聞こえてきた。
 その大きな声に、2つ隣の部屋で、のんきに昼寝をしていたクロノがびっくりして起き上がった。
『マール!?』
 窓からモンスターでも入ってきたんじゃないか、なんて考えながら、クロノはマールの部屋へとダッシュする。
『何かあったのか!?』
 クロノが勢いよく(ノックもせずに)ドアを開けた。
 …が、そこにいたのは、モンスターでも、マールの嫌いな爬虫類でもなかった。
 部屋の中は、マールの私物が、足の踏み場さえないほど散乱している。
そして、ベッドの上に、マールがウサギのような真っ赤な眼をして、座っていた。
『クロノッ!!』
 マールは、ドアの前で呆然と立っているクロノを見つけると、散乱している物たちを蹴とばしながら、駆け寄ってきた。
『マール…どうしたんだ、この部屋…』
『あのね、あのね、』
 しゃくりあげながら、マールが叫ぶ。
『クロノがくれた、四つ葉のクローバーのキーホルダーが、ないの…!』
   *          *
 話は1週間前にさかのぼる。
 マールが、現代・トルース町のグッズマーケットで、例の四つ葉のクローバーのキーホルダーを見つけた。
『わぁ、かっわいいvv』
『ふーん…』
 クロノは、彼女の隣からキーホルダーを見る。
 琥珀のような透き通った石の中に、緑色の四つ葉のクローバーが入っている。
『200G、か…』
 マールが値段を見て、ため息をつく。
『さっき、古代でコメットアロー買っちゃったから、もう210Gしかないんだよなぁ…でも、ほしい…!』
 どうしよう、と考えているマールを見、クロノは、彼女の手からキーホルダーを取った。
『じゃ、オレが買うよ』
ええっ、とマールが驚く。
『いいよ、そんな…』
『オレは別にいいんだ。それに…』
 クロノがマールの顔を覗きこむ。
『欲しいだろ?』
『で、でも…』
 そんな2人のやりとりを見たルッカが、近寄ってきてマールの肩に手を置いた。
『いいじゃない、買ってもらいなさいよ。クロノ、あなたに買ってあげたいみたいだし』
『なっ、ルッカ!!余計な事…』
『あら、違うの?』
『オレはただ、マールが欲しそうにしてたから…!!』
 口論を始めた2人を見て、笑いをこらえながらマールが言う。
『…じゃあ、お願いしよっかな』
 にっこり笑い、クロノの手にキーホルダーを置く。
『本当!?』
 クロノの顔が、パッと明るくなる。
『うん、それに…』
 マールが嬉しそうに言う。
『クロノが買ってくれるなら、本当に幸せを呼んでくれそうだもん!!』
『そこまで喜んでくれると、オレまで嬉しくなるなぁ』
 クロノは、頭のてっぺんまで嬉しい気持ちで満たされた様な気分になった。
『よし、じゃあ買ってくるよ』
 クロノは歩調も軽くレジへ向かった。

『ありがとうございました!!』
 レジで精算をすませ、クロノは綺麗にラッピングされたキーホルダーを、マールに渡した。
『わぁ…!!ありがとう、クロノ!!』
 マールは早速キーホルダーを取り出し、ボーガンのベルトにつけた。
『これでラヴォスも簡単に倒せるかもしれないわね』
 ルッカがマールに笑いかけた。
『…かもな』
 クロノも相槌を打つ。
『うんっ、きっと倒せるよ!!』
 マールは喜びいっぱいの顔でうなずいた。
   *          *
『…ああ、そんな事もあったなぁ』
 結局、その後ルッカも戻ってきて、今は3人でミーティングルームにいる。
『マール、どの辺りで落としたのか、覚えてないか?』
 まだ涙が止まってないマールの頭をなでながら、クロノは尋ねた。
『…たしか、お化けガエルの森で、モンスターと戦ったときは、…あった』
『で、その後は?』
 今度はルッカが尋ねる。
『……覚えてない』
 そのまま、3人は黙ってしまった。

 どれくらい時間がたったのか。
 外は、もう薄闇に包まれていた。
『とりあえず』
 クロノが口を開く。
『今日はもう暗くなってきてるから、探せないな…
 明日、朝一で探しに行こう』
『そうね、そうしましょうか…』
 ルッカも賛成した。
『…ゴメンね、クロノ、ルッカ…
 私の不注意で…』
 マールの眼に、涙があふれる。
『…いいのよ、マール…
 とりあえず、顔、洗っておいで』
 ルッカが、マールの背中を軽く押した。
『…うん』
 洗面所に向かうマールの後ろ姿を見ながら、ルッカが言った。
『…わかる、クロノ?
 マールはね、クロノからもらったから≠んなに大事にしてるのよ』
『…ああ』
 クロノがぶっきらぼうに答えた。
 しかし、そのエメラルドグリーンの瞳は、もうある決意をしていた…
   *          *
『クロノ?』
 今は夜10時。
 読書をしていたルッカが、顔を上げた。
『うん…夜ご飯の時から、見てないの…部屋にもいないし…
 ルッカ、知らない?』
 もうパジャマに着替えて、髪も解いているマールが心配そうに言った。
『あ、さっき…刀持って、森の方に行ったような…』
『森ね、ありがと!!』
 言うなり、マールは外へと、駆け出して行った。
 それを見て、ルッカはくすりと笑った。
『何しに行ったのか、わからないのかしら…』

『…ちくしょ〜、見つかんねぇ…』
 一方、こちらは、お化けガエルの森。
 クロノは、刀とライトを手に、草むらにいた。
 もちろん、キーホルダーを探しに。
『ない、ない、ない…』
 ふと、手を止める。
 ―あんな嬉しそうなマール、久しぶりに見た…
 あの笑顔を、なくしたくない…!!
 そう心に誓い、再び探し始めた時。
『!!』
 草むらの奥で、何かがライトの光を反射して輝いた。
(もしかして…)
 近づいて、よく見てみると、そこにはマールがなくしたキーホルダー。
『あった…!!』
 拾い上げて、振り向くと。
 マールがいた。
 息を切らせ、こっちに走ってくる。
『クロノ…あったの?』
『ああ…』
 クロノは笑い、手のひらのキーホルダーを見せる。
『あ…!!』
『ほら、もうなくしたらダメだぞ』
 マールの白い、小さな手のひらに、キーホルダーを置く。
そして、しっかりと握らせる。
『…ありがとう』 
 マールはにっこり笑った。
 クロノは、照れて、回れ右をした。
『さて、用事もすんだし、戻るか』
 振り向き、クロノがマールに右手を差し出す。
『行こう、マール』
『うん!!』
 マールは元気にそう言い、クロノの手を握った。
 手をしっかりつなぎ、2人で宿屋に向かって歩き出す。
『そうだ、マール』
 クロノが思い出したようにマールの顔を見た。
『?何、クロノ?』
 マールが首を傾げる。
『どうして、そんな安いキーホルダー、大事にしてるんだ?』
 昼間、ルッカが言っていた事。
 それが真実なのか確かめる質問。
 
 マールは、迷うことなく言った。
『もちろん、クロノからのプレゼントだから!!』
 クロノは心の中で、安堵のため息をついた。
『それにね』
 マールはクロノの瞳をまっすぐ見て、続けた。
『このキーホルダー、本当に幸運を呼ぶんだよ!』
『例えば?』
マールは、キーホルダーをもらった時以上の笑顔で、答えた。
『こうやって、クロノと2人でいられる事!!』
 …と。 


☆FIN☆



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