蜘蛛の巣


「クロノ、今日はここでもう一泊することにしたぞ」
カエルはクロノの部屋に入るなり、突然こう告げた。
クロノが朝食を済ませて部屋へと戻り、宿をたつ準備をしている最中のことだった。
「え……なんで?」
「マールが、お前の調子が悪そうだから今日はここで休みをとることにしたんだ。
俺は気がつかなかったが、そう言われてみれば確かに今朝のお前はいつもより口数が少なかったしな……
まあ、今日一日はゆっくり休んでおけよ。
――ああ、後でマールも来ると思うから、怒られないようにおとなしくしておけよ」
それだけ言い終えると、カエルは部屋を出てゆこうとする。
「ちょ、ちょっと待てよ。カエル!」
クロノは慌てて呼び止めた。
「カエルは、どうするんだ?」
「……まあ、俺はこの町の見物でもしてくるかな」
そうか、とクロノは返して、カエルを見送った。

クロノの調子は、実際あまり良くはなかった。
ただ、いつもの疲れが出ているだけのことである。少なくとも本人はそう思っていた。
けれども、マールが敏感にクロノの様子を気遣ってくれたのはうれしかったし、少し照れくさくもあった。
ふかふかのベッドに腰かけると、クロノをほんの少しの身体の重みが襲った。
大した変調ではないが、さすがに激しい戦いは無理なのかもしれない。
そんなことを考えていると、部屋のドアがノックされる。
「クロノ、いいかな?」
カエルが言ったとおり、マールが来てくれたようだ。
「いいよ」
クロノが応えると、マールはそっと扉を開けて顔をのぞかせた。
「大丈夫?つらくない?」
マールは病人を見舞うような、不安そうな表情のまま話しかけてくる。
そんなに、心配することないのに、とクロノは思った。
ただ、そんな気遣いと優しさが愛らしいのだけど、と付け加える。
「大丈夫だよ」
それほどのことじゃない。ただ、いつもの旅で少し疲れが出ているだけだと。
クロノは心配させまいと強がってみせる。
「だって、クロノはいつだってがんばりすぎるんだもの」
「ありがとう……じゃあ、今日は部屋でゆっくりしておくよ」
そう言って、なおも不安そうな表情を見せるマールを落ち着かせる。
「どういたしまして!――あ……そうだ!」
「クロノ、熱はない?お昼ごはん考えなきゃいけないから」
マールはにこにこ顔でクロノに訊く。
「大丈夫だって!昼は外で食べられるよ」
「……本当に?」
本当だって、と返そうとした瞬間。クロノの体は凍りついた。
マールがクロノの額に自分の額をつけ、熱を測りはじめたのだから。
クロノを気遣っての行動。
……ただ、マールはあまりにも挑発的で、近づきすぎた。
クロノとマール。額を互いにくっつけあう、あまりにも近いこの距離。
マールからいい香がただよってくる。
何の花なのだろう。花畑をただようほのかな甘さ。
可憐な姿なのに、まるで誘っているかのように、魅力的。
すぐそこにある、形のよい唇。
奪おうと思えば、すぐに奪える。
マールからただよう甘い匂いに、クロノのやりばのない腕が反応する。
――こんなにも近い華を前にして、じっとしていられるわけがなかった。

突然、クロノはマールの腕をつかんで、胸の中へ引き込んだ。
「えっ……!」
力強く抱き込んで、無意識の抵抗をゆるさない。
そのまま巣へと引き込み、押さえつける。
「んん……!?」
そしてマールの唇にくちづけた。舌を絡めて、いっぱいまで侵入する。
消極的なマールを引きだして、翻弄する。
「ん……んっ」
ここへ来て、自分の置かれている状況が分かりはじめたのか、だんだんと抵抗をはじめた。
ただ、もがけばもがくほど術中にはまる。
しばらくして顔を離すと、マールは瞳を潤ませて哀願した。
「クロノ……やだよ、こんな……」
首を振って嫌がる。しかし、どんなに逃れようとしても、羽はもう網にかかっている。
「ね、カエルさんが来たら……」
マールは思いついたひとつの希望にすがる。
だが、その叫びは情欲を煽り、来るはずのない援軍は欲求に支配されたクロノには無意味だった。
蜘蛛が獲物をたしかめるように、クロノはそろそろとマールの身体に手を這わせる。
ただ、壊れ物を扱うように、やさしく、丁寧に。
傷をつけてはならない――味わうのは、ゆっくりと。
唇を食みながら、首筋をなでて、小ぶりなふくらみをなでさする。
「あ……」
吐息が漏れる。抵抗が弱まったのを見計らって、マールの衣を取り去ってゆく。
自らの身を守っていた衣服が取り払われても、マールはほとんど抵抗しなかった。
荒々しさの中の、優しさという包囲網からは逃れられない。
なんの穢れもない、真っ白な素肌があらわになる。
片方の手でマールの胸を愛撫しながら、クロノもまた自分の服を脱いでゆく。
クロノはマールの上半身を抱き寄せる。
そして、守るもののなくなった、胸のふくらみの中心の果実を口に含んだ。
「はあ……んっ……あっ……」
舌で転がし、時にはそっと吸い上げてやると、マールは悶え、敏感に震えた。
もう片方の弱点も、指で遊んでやる。それを繰り返すほどに、マールの警戒心は崩れていった。
「あ……はぁ……」
胸の愛撫はそのままに、髪を、頭をなでてやる。
そう、それでいいんだ。
従順にさせて、思うがままにされているのを褒め、拒絶することを許さない。
クロノはマールを可愛がっていた手を、ゆっくりと下へ移動させていく。
未だ遊ばれている胸元を通って、腹のほうへ。
脱ぎかけの衣に手がかかると、そのままゆっくりとおろしてゆく。
マールは、恍惚に包まれながら、徐々に砦を失ってゆいった。
下着に手が触れたとき、ようやくマールは流されかけていた理性を取り戻した。
「あ……!やめて、クロノ……お願い……」
熱っぽさを増しはじめ、荒くなる呼吸の中、マールは必死に訴えた。
しかし、身体にに絡みついた糸は、もうほどけない。
「ああ……んっ……」
下着の隙間から侵入させた指を動かす。
しっとりと湿ったそこを刺激して、マールから抵抗できる力を奪ってゆく。
顔を胸の突起から離しマールの顔を見ると、涙をためた瞳がだんだんと虚ろになっているのが見て取れた。
芯の部分を隠していた布は、あっさりと取り払われる。
「やぁ……あ……ん……」
クロノがそっと舐めてやると、マールは全身を震わせて喘いだ。
マールの自制心がほどけるまで続け、心が決まるまで、待ってやる。
もはや、華は抵抗することを忘れているかのようだった。
もしかしたら、巣からはもう逃れられないと、あきらめているのかもしれない。
クロノは寝かせられた獲物を逃さず味わえるように、両脚を割って覆いかぶさるように身体を重ねた。
「あっ……」
わずかに、マールが反応する。
頬にはわずかに朱が差し、目はぼんやりとしつつもクロノを見つめている。
クロノが愛おしげに抱きしめてやると、マールは素直な反応を返した。
それを見て、クロノは自分のものを割り入れる。
「う……んっ……」
無意識にマールの唇から声が漏れた。
ゆっくりとクロノが侵入し、押し上げると、逃れようのない快楽が生まれる。
「あ……あああ……」
動かされるごとに快楽の毒が送り込まれ、身体が侵食され、蝕まれる。
クロノの動きに翻弄されて、ほんの少し抗うことすら許されない。
抗おうとしても、またすぐにクロノから毒が与えられ、抵抗の意思は打ち消される。
「マール……」
見つめながらクロノが穏やかに囁く。髪をなでて、マールを魅了する。
そっと触れる程度に、やさしく口づけた。
毒と優しさでマールを追い込んでいき、染めてゆく。
「ああ……ん、クロ……ノ……」
ただひたすらに快楽を与え続けられ、マールは熱にうなされる。
クロノに染められて、頭がうまく働かなくなる。
しかし、マールは溺れながらも、クロノをしっかりと受け入れていた。
クロノがよりいっそう身体を侵入させ、動きを早めてゆくと、毒性がさらに強くなる。
離れるのを嫌がるようにクロノを抱き寄せ、すがりついて更に誘う。
ただ与えられ続けるままに受け取って、中毒になる。
「あ、ああ……あっ……だ……めっ……!」
弱い身体に、許容を超えたものを送り込まれて、マールは身体を引きつらせた。
絶頂に上りつめて、クロノを抱きしめる。
「く……ぅ……!」
そうして、クロノもまた逃れられない恍惚の瞬間を迎えた。

「クロノ……」
マールは気だるそうな目でクロノを見つめた。
何を言おうとしているかはクロノにも分かっている。
「……ごめん」
謝罪し、抱きしめるのをやめて、身を起こす。
と、クロノはマールの胸に崩れ落ちる。力が入らない。
「……!クロノ!」
「やっぱりちょっと、ダメかも」
その様子を見てマールは許したのか、そのままそっとクロノの頭をなでる。
「マール……ありが……とう……」
心も、体も、温かい。クロノはマールを抱きしめたまま、うとうとと眠り始める。
「……ゆっくり、休んでね」
子供を寝かしつけるようにマールはやさしく囁いた。
まだ、休日ははじまったばかり。しばらくこうしていても大丈夫だろう。
そう思っているうちに、いつしかマールにも穏やかな眠りが訪れていた。


えーと。まずは、すみません。
「微熱」を裏っぽく書き換えてみたらこんな感じになりました。
クロノもとい完全に由空さんの言われるところの「黒ノ」からマールを襲っているんですけど、
マールもまんざらでもないパターン。既にそういう関係という前提で(……)
熱にやられているところにマールの優しさ&不用意な接近で我慢できなくなった図。

クロノが蜘蛛でマールが……蝶あたりですか。
マールがクロノに近寄りすぎて逃げられなくなる状況です……って、これって大丈夫かな……(汗)
ちなみに蜘蛛は獲物に毒を使って、麻痺させてから食べるそうです。

強引だけど優しく外堀から攻めてゆくクロノと、
だんだん抵抗できなくなってくるマールを書いてみたかったのですが、完成したらこんな形に……!
いや、思いっきりリードしているクロノもいいかなと。

男性向けよりもずっと表現はおとなしいはずですけれど、それでも過激かも……
気分を悪くされたらすみません!

オチは、やっぱりクロノへの感謝含むという感じです。
……といっても愛がなければ成り立たないんですけど。
ただ、マールも「ちょっと悪いことしちゃったかな」と反省しているわけです。
マールに甘えるクロノをちょびっとだけ入れてみました。


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