灯火【ともしび】 /後編


 寒い。
 寒い。
 ここはどこ?
 白いベールが私を包む。一歩歩くたびに地面が氷の橋をつくっていく。私の足跡は氷の結晶。そう。それが私の魔法だから。なにもかもを凍てつかせる、たった一人の人さえ温められない、無力な魔法・・・薄れた意識の中で何故だか心に棘が刺さっていることに気づく。

 私、なんであんなことを・・・・
 クロノに向かって呟いたことを思い出す。困惑してた。また、心配させた。
 迷惑はかけたくないの。守られているばかりではイヤ。お姫様扱いはイヤ。
 いつから・・・?
 いつからそう思い始めた?
 仲間だけど、みんな私には気を使う。野営のときも。食事のときも。戦闘のときも。女の子だから?弱いから?お姫様だから?わからない。
 でも、でもね。そんな風に特別扱いしてほしくなかった。私をみんなのように一人の仲間として扱ってほしかった。
 誰に・・・?
 誰に・・・?
「クロノ」に・・・・
 泣いている私をなにかがそっと包む。ああ・・あたたかい。気持ちいい・・・




 徐々に意識が薄まり始めた。変わりに背中に湿った草の感触。頭がやけに軽い。いつもなら涼しいうなじに、髪の毛が降りているのがわかる。・・・ここはドコ?
「ん・・・・」
 懸命に瞼を持ち上げようとする。瞼の裏とそう変わらなかった。あたりは、暗い。遠くからゴオゴオと白魔の叫び声。
「クロノ・・みんな・・?」
 夢・・だったの?あんなこと言ってしまったのも夢?
 白い世界を歩いていたのも・・・・
 瞳を必死に動かして、クロノの姿を探す。あたりは暗い。でも・・さっきの洞窟とは違う。さっきのは、こんなに狭くなかった。第一、みんなの気配がしない。

 身体を起こそうとして、自分の身体に獣の生皮がかかっているのに気づく。やわらかな、おそらく熊かなにかの。時間がたっているのか、色が少し褪せているが・・・・
「クロ・・・」
 再び問おうとして、凍りつく。生皮をかぶっていた自分の身体は、衣服を纏っていなかった。下着を残して・・・マールは、全裸だった。
「きゃぁ!」
 慌ててまた皮を被る。なに?なんで?どうして?どうして私裸なの?
 もう一度潜り込もうとして右手に柔らかくて温かいものが触れた。
「え・・・?」
 生皮の不自然な盛り上がり。
 そこには。

 クロノがいた。

「あ・・・・」
 どくん。
 おなかの下あたりにすぅっとなにかが駆け抜ける。
 クロノは眠っていた。よく見えないけれど・・・・上半身は裸だ。
 どくん。
 どくん。
 左胸が高鳴る。鼓動がまるで・・・いつもの3倍近い速さで・・・
 どくん。
 どくん。
「マール・・・・?」
 ふと、あどけなく眠っていたクロノが目を覚ました。瞼を持ち上げ、マールを見る。
「クロ・・ノ・・・」
「気が・・・ついたのか」
「私・・・どうして・・・ここは・・・クロノは・・・」
 言いたいことが言葉にならない。
 ここはどこ?
 ロボは?
 クロノは?
 みんなは?
 服は?
「おまえ・・・雪原のど真ん中でぶっ倒れてたんだぞ。」
「え?」
「死んでるかと思った・・・冷たい身体で。何度呼んでも目を開けなくて。」
 クロノ・・・泣いているの?どうして・・・
「よかった・・・無事で・・・」
 身体を起こして、腕をマールの首に回した。ぎゅっと抱きしめる。
 微かに震えていた。
「クロノ・・・」
 あったかい。
 この、体温だ。夢で見た体温。クロノが・・・私を温めてくれた。
「ごめんね・・・」
 頬を伝う。温かい一筋の滴。
「ごめんなさい・・・」
「マール・・・」
 首に回した腕を緩め、少し身体を離すと、クロノはマールの濡れた頬を両手で包んだ。大事なものを触るようにそっと。流れ出る滴を唇で受け止めた。
「マールは、役立たずなんかじゃない。大事なんだ。傍にいてほしい。オレの、傍に。充分だよ、それで・・・・」
 ぎゅっと抱きしめる腕に力がこもる。
「なくしたくない・・・
渡したくない・・・・」

「クロノ・・・」
 嬉しかった。初めての彼の告白。大事に思ってくれてた。お荷物なんかじゃないって、私は・・・・。クロノが・・・クロノのこと・・・
「好き・・・・」
 好きだよ、クロノ。世界で一番。今も昔もあのときから。そしてこれからだって。本当だよ、信じて・・・

「好き・・・・」
 びくっと体が反応した。腕の中の愛しい人の小さな呟き。たった2文字。それだけで・・・。
 体中が過敏になる。裸の胸に感じるマールの胸の柔らかさ。背中に回す腕の細さ。抱きしめるこの体の貧弱さ。かよわい、壊れてしまうほど繊細なこの体。
 自分の中でなにかが突き上げる。
 ふと、自分はすごく大胆なことをしているのに気づいた。
 マールを助けるためだとはいえ、断りもなく意識のない女子の氷のように固まった衣服を剥き、洞窟の中に忘れられていた、おそらくハンターの捕らえた熊の生皮にふたりでくるまって・・・
 身体を密着させ、自分の体温を分け与え・・・・

 あのときは、マールを助けるのに必死だった。
 でも、今は・・・?
 こうして敏感に反応している自分は・・・?
 目の前にマールの濡れた瞳がある。下ろして漂う小麦色の髪の毛。真珠をまぶしたような肌。さらしの下からでもわかる胸のふくらみ。
 目のやり場がない。
 思わず、視線をそらす。
 身体も離そうとしたら、マールは反動でしがみついてきた。
 胸に固い突起の感触・・・・ああ・・これは・・・・

「クロノは・・・?」
「・・・・。」
「私のこと・・・嫌い・・・?」

 ダメ押しだった。
 最後の・・・最後の理性の砦が、音をたてて激しく落城していくのがわかる。
 そして、跡形もなく、なくなった。

「クロ・・・・ぁっ」
 再度呼んだ愛しい人の名が最後まで紡がれずに虚空に消える。
 密接したからだとからだの間に差し込まれた手。
 マールの押し付けられた小さな膨らみをその手が包む。
「ぁ・・ぁ・・・ぁ・・・」
 ぴくん
 ぴくん
 からだが反応する。ああ・・何?この感じ・・・・

 キモチイイ・・・・

「マール・・・好きだ・・・」
「んぅ・・・・」
 唇を奪われた。閉じた歯列をムリヤリあけられ、なにかがはいってくる。

 舌・・だ

「ん・・・んん・・・んは・・ぁ・・・」
 これはキスなの・・・?・・・あん・・・なんでこんなに気持ちいいの・・・・?

 気づいたらさらしははずせられ、マールの胸はむき出しになっていた。
 マールの口内を犯しながら、クロノはその胸を揉みしだく。

 まるで・・・マシュマロみたいだ・・・

 柔らかすぎるその感触。愛しい。・・・食べたくなる。
 なにか行動を起こすたびに可愛い反応を返してくるマールを見ると、もっともっと彼女をいじめたくなる。
 揉むたびに目の前で揺れるサクランボをそっと指先でつまんだ。
「いっ・・・」
 親指と人差し指でつまんだまま、クリクリする。
「ああぁぁ・・・んん・・・・ぁ」
 声が大きくなった。

「マール・・・気持ちいい?」
「や・・・」
「気持ちいい?」
「ん・・・・、もっと。。」
 初めて、淫らな声が彼女から洩れた。クロノは嬉しくなってさらに指をすすめる。
 サクランボを口に含む。
 いつからか、マールは下着も全て脱がされていた。
 まるで気にならなかった。
 自分が全裸のことも・・・
 クロノが全裸のことも・・・
 自分の足の間に彼の頭があることも・・・
 自分のこととは思えないくらい、艶っぽい声を出してしまっていることも・・・・

 ぴちゃぴちゃと、淫らな音が洞窟内に響く。
 クロノに食べられている・・・・ああ・・・音をたてて食べられている・・・・
 そのたびにこのからだは悦んだ。

 ああ・・・クロノ・・・やめて・・・
 だめ・・・やめないで・・・あぁ・・ん・・・

 快感の海に溺れて、もう戻ってこれなくなりそう・・・
 でも、クロノとなら・・・溺れてもいいかな・・・・

 薄れ行く意識の中で、マールは幸せだった。
 ・
 ・
 ・



 吹雪がようやくやみ、朝のキラキラした光が雪に反射する中、最初にふたりを見つけたのは、ロボだった。
 この騒ぎを作った張本人なのに、何事もなくピンピンしているのを見ると妙に腹がたったが、クロノとマールは何もいえなかった。
「ロボ・・・このことはみんなには黙っておいてくれよな?」

 なみだ目ながらに訴えたのは、マールではなく、クロノであった。

 バラバラになったみんなは、ロボに一人ずつ見つけられ、助けに行くはずが助けられる図式となってしまったが、みんな怪我ひとつなく元気そうだった。
 ただ一点・・・・

 地の民の村を見つけたというロボの証言によりそこを目指す途中・・・
「クロノ、マール。今回ノコトハ皆サンニハ黙ッテオキマスガ・・・」
「な、なんだよ。」
「な・・なあに?」
 ロボは顔色ひとつ変えず(ロボットだから無理か)、歩を進めながら丁寧にいった。
「アンナ寒イ中デ裸デイルト、風邪ヒキマスヨ。」

 クロノとマールは、歩きながら首まで真っ赤に染まった。

END


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