赤ずきんちゃん気をつけて



 月鏡が枝葉の狭間から晧々とした光を差しのべる、静かな午夜。
 暗緑の天蓋がめぐらされた森の中、満ちた月の姿が望める樹の根元に、寄り添った二つの人影がある。……クロノと、マール。二人の影が。
 野営場所からは、やや距離を置いている。
 仲間たちが寝静まった頃合の逢瀬は、元を正せばマールが誘ったものだった。
 いつもであればクロノなどはいの一番に眠りについているところであるが、今日はたまたま朝が遅かったために、寝つきが悪かった。それならと、マールが夜の散歩に連れ出したのである。
 他愛ないおしゃべりも途切れ、二人は根を椅子代わりにして月を見上げていた。

「……こんな夜ってさ」
 ふと、マールが呟いた。
「魔物が出るっていうよね」
「魔物?」
「うん。満月を見ると、変身するって……」
 クロノはつい吹き出してしまった。
「なんだ。もしかして、狼男のことか?」
「そう、それ」
「あのな……それって作り話だろ?」
 呆れ笑いして、クロノは髪を掻いた。
 相も変わらず純真というか、子供じみているというか、あどけない話をしたがるお姫さまである。
 するとマールは不満げに、
「でも、カエルになる呪いだってあるんだから、もしかしたら本当にいるかもしれないじゃない?」
「まあ、そう言われればそうかもしれないけど」
「……って、前に同じことルッカに言ったらね」
「言ったら?」
「それよりも、傍にいる赤毛の狼に気をつけなさい、だって」
 ぶっ。
 再びクロノは吹き出した。
 ―― あいつ、人のいない所で何てこと言ってやがるんだ。
「赤毛っていうと、クロノのこと……だよね?」
 マールは顎に指を当てた。
「どういう意味か訊いても教えてくれなかったの。クロノはわかる?」
「…………」
 屈託ない瞳で尋ねてくる、彼女。
 照らす銀の月明かり。
 綺麗で、清廉すぎて、なんだか……不意に、壊したくなった。
「教えてやろうか?」
「うん」
 素直にうなずく。
 普段と違う声音に、気づくことなく。
「だったら」
 クロノは幹に手をつき、マールの唇に深く口吻けた。
「……!?」
 唐突なその行為に、少女の動きが止まる。
「ん……んん…………っ」
 驚きで縮こまった舌を誘い出すように、自分の舌を絡める。
 こね合わせられた互いの唾液が喉に流れたのか、マールは小さく呑み込む音を立てた。
「ふ……」
 苦しげに眉尻を下げ、吐息を洩らすその様に、やがて甘いあえぎが混ざり出す。
 そうしてようやくクロノは顔を離した。
「……何、を……」
 マールは半開きの目で荒く息をついた。起こった出来事に戸惑って、抵抗することも忘れたようだった。
 クロノは脱力しているその手をとり、耳元に口を寄せた。
「だから、こういうこと。女の子を襲う奴を『狼』って呼ぶんだ」
「ちょっ……クロノ……」
 胸をまさぐられて、マールが身をよじった。
 だが、構わずクロノは純白の裁衣に手を掛け、下ろしていく。
「わかったから、待って……。ね、こんな所で……」
 哀願も耳には届かない。
 一旦射られた矢が弓に戻らないように、放たれた気持ちも、また。
「……『月の光は人を狂わせる』ってのも、聞いたことがあるけど」
 手の中に収めてしまえる、控えめな乳房を揉みしだきながら、クロノはもう一度唇を重ねた。
「そっちは事実なのかもな」
 実際、いつもなら強引に求めたりはしない。
 こんな、大切なものをめちゃくちゃにしたくなるような欲求だって、起こらないのに――
「あ……あっ……」
 夜の外気にさらされて粟立ちかけた柔らかな肌を、温めるように抱き寄せて、胸に顔を埋めると、マールは悩ましい閨声をこぼした。敏感な部分で舌が蠢く度、いっそう声が高くなる。クロノはまるで本当に食べてでもいるかのように甘噛みした。
「あん……。は……ぁ…………」
 その隙を見て、徐々に服を取り去っていく。
 愛撫で尖った突端を口に含んだまま、腿の合間に手を滑らせ、秘芯に触れた。そのとたん、マールはびくりと全身を震わせた。
「やっ……! いや、ダメ……あ……!!」
 舐める一方で、もてあそぶように下腹部で指先を動かすと、マールは涙目になって悶えた。
 既に潤みを湛えていたそこが、瞬く間に溢れた蜜で満たされる。
「やめてぇ……っ……私、なんだか、変になっちゃう……!」
「オレもおかしくなってるからちょうどいいさ」
「そんな……あ、ああっ!!」
 濡れた指をひときわ強めにこすりつけた瞬間、クロノの背中に回された細い手にギュッと力が込められ、マールは身体を引きつらせた。達してしまったらしい。浅く乱れた呼吸に胸を上下させて、息を落ちつけようとしている。
 クロノは絡められた手を静かに外して、服を脱いだ。
「……あ……」
 夢見心地にとろんとした目が、両脚を割って身体を重ねる彼を見つめる。
 クロノはマールの膝頭を抱え、熱を帯びて硬くなった自分のものを押し込んだ。
「んうっ……あっ、あああ……ん……」
 ゆっくり前後に動かしてやると、与えられる快楽から逃れたがるように、マールは力の入らない手足をもがかせた。
 それを押さえ込んで、追い上げる。
「逃げるなよ」
 少し意地悪く言い、首筋にキスを落とす。
 それは自分も心地良さに酔わされて余裕がなくなってきているのをごまかすためだったが、マールは額面通り受け取ったのか、
「だって……だって……」
 と、泣き声で繰り返した。傾きかけて位置を変えた月が、頬の透明な涙の筋を際立たせた。
 狂おしい愛しさと官能に後押しされて、クロノは殊更奥まで身体を進めた。
「あんッ! クロノ、や、ダメッ」
 言葉と裏腹に、内部は彼を離すまいとするように捕らまえて包み込む。
 そして、動作が反復されるほど、うねりが増していく。
「あ……私、私……、もう……っ!」
 マールは切なく無防備な表情になった。
 同時に、堪えきれない衝動がクロノの中に突き上げてくる。
「くっ……」
 絶頂に導かれて、彼は思わず呻いた。


 くしゅん。
 マールが可愛らしいクシャミをした。
「カゼひいたか、マール」
 エイラが尋ねる。
 翌朝、野営場所を引き払う支度をしている時のことだ。
 日の光は優しく、ぽかぽかとした陽気である。
「昨日、そんなに寒かったか?」
 カエルが横から口を挟んだ。
「体感温度はそれほど低くなかったはずデスよ」
 ロボがそれに答える。
「うん……寒くはなかったけど」
 マールは苦笑混じりに呟いた。
「赤毛の狼が……ンむっ」
 それを慌ててクロノが羽交い絞めにして遮る。
 ルッカが怪訝に眉を寄せた。
「『赤毛の狼』が何ですって?」
「いや、なんでもない、全然なんでもないって!!」
「ふーん……」
 ルッカはジロジロと無遠慮にクロノを眺め、極上の微笑みで言い放った。
「クロノ、後でよ〜く話し合いましょうね?」
 事情が飲み込めない様子の他の仲間たちを尻目に、クロノは背筋に冷たいものが流れるのを禁じえなかった。


 その後、ルッカに洗いざらい白状させられた彼が、手酷いお仕置きを食らう羽目になったのは言うまでもない。

 −END−

<オマケのあとがき>

(1)何なんでしょうか、コレ。ヤるだけ話?(ぎゃーサイテー!!) しかも満月で発情する男に風邪ひきオチ、というDBジャンルのHネタでよく見かけるパターンに陥ってしまった……(汗) すんませーん;;

(2)この時点ではクロノとマールは先だって関係を持っている、という設定でお願いします(…) 前の「SWEET〜」以降の話という感じでしょうか。そのくせマールがボケボケで鈍いですが、別にカマトトじゃなく、これはもうウチの彼女の地です。地。

(3)それとは逆にクロノは「黒ノ」になってますね!(笑) 完全に人格変わっとるがな。Sっ気入ってるっぽいし(爆) まあ、既にそういう関係になってて心も通じた後だろうから、気持ち的に思い切りもついてるんでしょうけどね……暴走しすぎ(私が)。でも、こうでもしないと、とても裏小説なんて書けません(なら書くな)

(4)前より微妙に文章ヤバイかもしれません……。参考にと思って市販の18禁小説も読んでみたりしたので(オイ) 露骨すぎたり生々しすぎたりする表現は個人的に好きじゃないんで、そうならないように気をつけたつもりですが、「つもり」で終わってるかも(殴蹴)

(5)ちなみに「月の光が人を狂わせる」ってのは実際に信じられていた説です。英和辞典などを引くとわかりますが、luna(月)の派生語には狂気や精神病といった類の意味があるんですね。それはかつて、そういった異常は月の霊気が体に入り込むために起こると考えられていたからだそうです。以上、どーでもいいウンチクでした。

(6)さらにちょっとしたオマケ。その後のクロノとルッカの会話。→


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